まるで蜂の巣を突いたような騒ぎ。

ムービーって、それは犯罪だろうが。

先ほどとは別の意味で頬を歪める光に、一頻り笑い終えた男はにやりと笑みを作った。

ぱっと拘束が解かれる。

「悪かったな。ちょっと見たことあるような気がしたんだけど、勘違いだったっぽい」
「いいよ、気にしてない」

いいえ、貴方の思い違いではありません。

なんて本音を言えるはずもない光は、曖昧な笑顔で答えた後、仁志の隣の席に腰を下ろした。

「なぁ、光って呼んでもいいか。俺は仁志 秋吉。好きに呼べよ」
「あぁ、うん。じゃあア……仁志で」

危うく以前耳にした彼の通称を口にしかけて、光は己の迂闊に内心で舌を打った。

それに気付かなかったのか、相手は「よしっ」と満足そうに頷く。

「転入したてで学院のこと分かんねぇだろ?俺に聞けな」
「……あ、ありがとう」
「んだ?」

こちらのびっくりした気配が伝わったのか、仁志が不思議そうに尋ねる。

「いや、なんかイメージと違うから……」
「あぁ?イメージ?」
「親切なんだなぁと思ったら、意外で……気分悪くしたら、ゴメン」

不機嫌になった傍らの生徒に、光はしゅんっと項垂れた。

『キザキ』の時は、比較的明るいノリのキャラクターを装っていたから、人間関係を作るのは楽だったが、今回の容姿を鑑みれば、地の性格の方が似合う。

そうなると、同年代の人間との会話に不慣れな『千影』は、上手くコミュニケーションを取ることが出来ないのだ。

が、光の心配は杞憂に終わった。

「何ヘコんでんだよ。悩むとすぐにハゲんぞ。お前やっぱ面白いな」
「そ、そうかな?」

表情を一変させた相手に、光はようやく彼の性格の一端を把握した。

「仁志さ……喜怒哀楽が激しいって、よく言われない?」
「へぇ、よく分かったな。すげぇ」
「まぁ……」

今までの短時間で、すでに光は『喜』と『楽』、更には『怒』に近いものまで目にしてる。

これで分からない方がどうかしているだろう。

「はーい、意外な組み合わせにクラス全体が動揺している中で、SHRを終わります。解散」

すっかり意識の外に追い出していた須藤の声に、光は我に返った。

時計を見れば、なるほど。

規定の時間も過ぎている。

現実を取り込む余裕が生まれた光は、途端、そこかしこから突き刺さる悪意の塊に、目を眇めた。

「仁志ってさ、どんだけ人気者なの?」
「はぁ?」
「様付けで呼ばれるくらいだし、何かの教祖様とか?」




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