彼が何らかの形であのクスリに関わっているのは確かだ。

これは否定出来ない事項である。

だからと言って、悪しき方向で関わっているとは思えない。

こちらを傲慢であると糾弾し、友人のために心を砕いた光は、本人が認めなくとも真っ直ぐだと穂積は思っている。

その彼が、ドラッグと関わりを持っているのだとしても、決して負の側ではないはずだ。

しかし、手元にある情報のどれも、光の立場を明確にするものではなかった。

現在、懲罰房で謹慎させている霜月の寮の自室には、これまで発見された量とは比較にならぬほど多量のドラッグが保管されていた。

すでに半分ほど使用してあり、彼の自供によると学院の生徒数名にも流していたらしい。

証言を元に、クスリを受け取った生徒は学期明けにまとめて処分するとして。

問題なのは、山ほどのドラッグを誰が霜月に渡したのかが不明な点である。

差出人名すら記載されていない段ボール箱が届いたのは、六月の頭。

光が学院へ転入して来た時期だ。

疑わずにはいられないタイミングは、穂積の内側を焦燥で乱した。

生徒会役員の誰も口にすることはないけれど、皆あの少年を気にかけずにはいられない。

事件の中心には、転校生がいるのではないかと。

彼がダークサイドの人間でないと立証するには、この調査で学院内のドラッグ流行を解明する確かな手がかりを絶対に見つける必要があった。

ふと緩んだ唇は、自嘲の笑みを刻む。

何を懸命になっているのだろう。

例年ならば年間で最も行事がある、二学期の準備に追われている時期。

いくら学院内の治安維持のためとは言え、執務を中断してわざわざ暑い日差しの下に出て行くなんて。

おまけに、城下町を駆け回る穂積個人の目的は、転校生の潔白を証明する方に主眼を置いているのだ。

自分がここまで力を尽くす理由がどこにある。

最初に決めたはずではないか。

長谷川 光を潰すと。

冴えない容姿で醤油瓶を投げつけられたときに、そう決めたのに。


何故こんなにも、彼がドラッグの「売人」ではないと主張したがるのか。


己の心を見失いそうな危機感は、このところ急速に高まっている。

最たる例は勿論のこと「あれ」だが、もう一つ。

行き先も告げぬまま帰省した光に対する、不愉快な感情を、穂積は持て余していた。

人知れず姿を消すなどという真似をされて、どうして無感動でいられよう。

悔しいような腹立たしいような、失望と嘲笑と。

とりどりの思いが混ざり合って生まれた色は、いやに神経を逆撫でする。

結局、光がどこに行ったのかは知れたのだから、不都合なことなどないと言うに、胃の底に溜まった澱はなくならない。




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