エンカウント。
SIDE:穂積
痛いほどの光を降り注ぐ、夏の太陽が中天に昇っていた。
ただ歩くだけでじんわりと汗が滲む気温に、プリントTシャツから除く腕が焼かれる。
ジーンズと合わせただけのラフな格好で、穂積は一人城下町を回っていた。
凝ったデザインの腕時計に目をやれば、相方と分かれて二時間ほどが経過しようとしている。
携帯電話に連絡はないから、向こうも特別何かを見つけたわけではないのだろう。
木陰のベンチに座ると、穂積は何とはなしに眼前の光景を眺めた。
夏休みの今、多くの店が展開する城下町は、大勢の人間で賑わっていた。
その多くは若者で、友人や恋人と綺麗に整備されている街路を楽しげに歩いて行く。
平時ならばチラホラと目にする碌鳴の生徒は、今は見当たらなかった。
穂積とて学院の生徒すべてを記憶しているわけではないが、一種独特な環境のせいか、碌鳴生は同じ碌鳴生を察知する能力に長けている。
言うならば纏う雰囲気だろうか。
同じ組織に所属する人間であると、何となく気配で分かるのだ。
長年、学院のトップグループに所属して来た穂積も、勿論その能力を有していた。
目の前を過ぎって行く人々は、一人物憂げな表情でベンチに座る男をこっそり、或いはしっかりと見ては、きゃいきゃいと何事か騒いでいる。
あるべきものが、あるべき場所に存在する類稀なる美貌の男に、皆一様に目を奪われていた。
好奇と興味の視線に晒されているのに慣れている当人は、向けられる数多の視線を気にするでもなく、熱気で火照った額に手を当て思考の底へと落ちて行った。
光が姿を消して、五日が経った。
逸見の持って来た知らせによって、彼が帰省したことは分かっている。
両親が海外へと転勤している転校生は、休暇中の滞在先に緊急連絡先と同じ、親戚夫妻の元へ帰ったらしい。
行く先がはっきりしたのならば、一先ずは安心だ。
行事の終了を待って帰省する予定だった、歌音と逸見を除く残り三人で、穂積は来学期に催される行事の準備と、基本執務、そしてドラッグの調査を進めることにした。
ドラッグの調査。
これまでの調べで、学院で発見されたあの薬が城下町で流行していることは突き止めてあった。
長期休暇といっても、全員が実家や本家に帰宅しているわけではない。
仮に帰省届けを出していたとしても、城下町に足を運ぶことなど簡単だ。
学院の生徒がドラッグの蔓延している地帯に出入りしていないか、休暇を利用して見回ることにしていた。
出入りが確認されなければそれでよし、万が一にも見つけた場合には、そこから学院内のドラッグ浸透状況を探ることが出来る。
穂積としては、なるべくこの調査でドラッグの関係者を捕まえたい心持だった。
閉ざした目蓋の裏側に、不恰好な少年の姿が浮かぶ。
クスリに関する知識を何故か持っていた光。
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