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制服のシャツの下で、鼓動がドクリと脈を打つ。
内心の動揺を気取られぬよう、精一杯の無表情を心がけて先を促す。
まさか、穂積たちも「キザキ」を知っていた?
光が変装をしていることを。
いや、逆の場合も在り得るけれど。
兎に角、光が以前、別の名前と外見を持っていたことを、彼らも知っていたのでは。
仁志の抱いた予想が、大きく裏切られた。
「長谷川には、ドラッグとの繋がりがあるかもしれない」
それも、悪い方へ。
穂積の目はまっすぐに仁志を見つめていて、二つの黒曜石には冗談の気配は微塵も感じられない。
意を決したように語られた内容に、思わず喉が引きつる。
部屋に流れる静寂が、一層の重みを増して、仁志の肩にズシリと圧し掛かった。
「い、みわんねぇんだけど……」
無理やり唾液を呑み込んで、呼吸器官をこじ開ければ、妙なぎこちなさを帯びた声が出た。
先ほどとは違った理由から、心臓がけたたましく動く。
「長谷川の転校時期は、以前ドラッグ所持で逮捕された生徒が、退学した一ヵ月後だ。そして、アイツが学院に現れた一ヵ月後に歌音たちは街で同様の薬物を持っていた生徒を捕まえた」
「ちょっと待てよ」
「長谷川自身、そのドラッグと関連する事件に見舞われたのは二回。七夕祭りのときと、そして一昨日だ」
サマーキャンプで光を拉致した霜月たちは、確かに薬物を使用していた。
それは以前から生徒会内で通常執務の傍ら調査していたものと同種で、七夕祭りのときのものとも一致する。
七月の前半に、城下町に下りていた歌音と逸見によって、生徒のドラッグ所持が見つかったことも、綾瀬伝いに聞いていた。
けれど、光と関連させるのはあまりに突飛な話ではないか。
無理がある推論は仁志に怒りを覚えさせるだけのものであり、カァッと腹の底が熱くなる。
「てめぇ、そんなくだらねぇこと、本気で言ってんのかよ」
「仁志」
「偶然が重なりあっただけってことじゃねぇか。光とドラッグをこじつけてぇだけだろ」
今すぐに根拠のない疑念を破棄しろと、仁志の低音は告げていた。
あと少し圧力を加えれば爆発してしまうような男を、穂積の瞳は冷静なまま見つめていたが、僅かの間を置いてゆっくりと首を横に振った。
何を意味するジェスチャーなのかさっぱり分からず、胡乱な視線を送る。
穂積は一旦は外れた目を元に戻すと。
「関係ないと言うには、長谷川はドラッグに詳しすぎる」
仁志の目が、見開いた。
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