―――お前は、誰だ?


そう詰問したのは、転校生が消える前日の夜だった。

もうずっと前から抱き続けていた疑問。

キザキの存在を思い出し、記憶の中の赤髪の男と光の姿がピタリと一致した。

光はキザキ。

どうして姿や名前を偽っているのか知りたくて、仁志は光を追い詰めるように問いかけた。

どうして自分と、初対面だと言ったのかも。

だが、こうして光が消えてしまえば、純粋な疑問はぐらりと揺らぐ。

逃げたのではないか、と。

光とキザキは見事なほど正反対の容姿、言動だ。

同一人物であることを、隠しておきたかったに違いない。

では何故隠す必要がある。

何から隠さなければいけない。

露見することで生じる不利益とは何だ。


何か、隠さなければいけない理由があるのか?


もやもやと輪郭を持たない不信感に支配されそうで、仁志はその重い固まりを追い出すように大きく息を吐いた。

「もしかしたら、学院を出ているんじゃないかな」

ぽつりと零された言葉は、独り言の口調だったが、シンと沈黙していた生徒会室ではやけに大きく響く。

我に返るように顔を上げれば、歌音が愛らしい面には似合わぬ険しい表情を作っている。

隣に座る綾瀬が、歌音の発言にぎょっとした。

「でも、長谷川くんがいなくなったのは、夜から朝にかけての間だよ?その間に城下町へのバスは出ていないし、もし外に行ったのなら麓までは随分時間がかかる」

そこまでするのか、と綾瀬は返したものの、含まれる感情はどこか頼りない。

下がった眉尻を見て、仁志は綾瀬を安心させる言葉を探そうとしたが、ふと気付く。

思えば、他の役員たちの表情には、心配とは種類を別にする「何か」が見えないだろうか。

確かに事態は深刻だが、それにしても険しい頬の強張りは引っかかった。

怪訝な思いでいたとき、それまで黙っていた穂積が口を開いた。

「仁志」
「なんだよ」
「お前に話しておかなければならないことがある」

え?

そう返す仁志の向かいで、ハッと綾瀬が生徒会長を振り返った。

歌音の小さな吐息を逃がす音。

「なんだよ、話さなきゃなんねぇことって」
「長谷川についてだ」
「……なに」




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