去り人の行方。
SIDE:生徒会
「いたかっ!?」
荒々しい調子で生徒会室の扉を開くなり言った男は、先に戻っていた見知った面々の姿に、セットされた金髪頭をぐしゃぐしゃと掻き毟った。
深刻な面持ちで応接セットにつく生徒会役員たちは、すでに方々駆け回ったあとのようで、精神的な疲労と合わさり随分と消耗した顔をしている。
寮内を走り続けて来た仁志もまた、仲間にならって定位置のソファに勢いよく倒れこんだ。
対面では俯き加減の綾瀬と、何事かを思案する歌音。
逸見の姿はなく、穂積は自分のデスクに着き両肘を立てて中空を睨み付けている。
誰かが言葉を発することはなく、常ならば執務のために騒然となる室内は、驚くほど静かだった。
今朝、碌鳴学院の敷地から、一人の少年が消えた。
長谷川 光。
学院では非常に珍しい編入生として、六月の頭に現れた黒髪と眼鏡の冴えない優等生。
本来ならば、生徒会役員と交流を持つはずもないであろう転校生は、外見を裏切る大胆不敵な行動と発言で、今や部屋にいる人間たちにとっては見過ごせない存在となっている。
その彼が、消えたのだ。
朝方、仁志が部屋を訪れたときには、すでに姿はなく、置手紙すら見当たらなかった。
最初は少し外出をしているのだろうと考えた。
しかし、いくら部屋で待ってみても部屋の主は戻って来ない。
携帯に電話を試みるも、合成音声は電源が切れているの一点張り。
ただ刻々と時間が進み、夏の太陽が一番高い位置に来る前に、仁志はことの異常を察した。
学院の生徒から目の敵にされている光は、何かと危険に晒されることが多い。
つい先日も、八月イベントのサマーキャンプで、筆頭・霜月 哉琉率いる会長方に拉致されたばかりだ。
まさか、また誰かに連れ去られたのでは。
光を探し始めた仁志の頭を一瞬だけ過ぎった不安の種は、すぐに投げ捨てられた。
事件が起こったのはほんの二日前。
いくらなんでも、このタイミングで生徒会信者が制裁に乗り出すとは思えなかったし、最大規模の会長方を抑えたことで、他の組織は大きく牽制されたはず。
光は自ら行方をくらましたのだ。
一人では埒が明かないと判明したのは、イベントも終わり生徒たちが粗方帰省し終わって閑散とした寮内すべて探しまわった後のこと。
今日も今日とて早くから事件の事後処理に取り掛かっている生徒会に連絡をした。
仁志の語る内容は他の役員にも大きな衝撃を与えたらしく、学院を取り仕切る権力者たちは、仕事を放り出しての光捜索を開始した。
そしていくらかの時間が経ち。
結果は現状だ。
仁志は苛立たしげに、舌打ちをした。
光が消えた。
悟ったとき、背後から鈍器で殴られたのかと思った。
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