指示を出したのはあくまで須藤なのに、攻撃対象が自分とは、納得いかない。

崇拝されるような人間ならば、よっぽどの人格者に違いない『仁志様』とやらは、この事態をどう思っているのだろう。

話題に上がっていると言うのに、アクションを見せていないようで、誰か分からない。

眼鏡の瞳を動かして、窓際最後尾の隣を見た光は、机に突っ伏した金髪頭に驚いた。

崇め奉られている人間が、大よそ名門校のイメージとはかけ離れた存在だったからだ。

生徒の様子を見れば、絶大な支持を得ているであろう生徒が、金髪。

あぁ、やっぱりイレギュラーな学校だ。

お休みになっていたらしい『仁志様』だが、流石にこの喧騒の中睡眠続行は不可能だったようで。

ダルそうな仕草で上半身を起こした。

途端、方々から聞こえた感嘆の溜息。

切れ長の双眸に鋭い眼光。

シャープに作られた面に、高い鼻梁と薄い唇。

耳に空けた無数のピアスが、金髪の陰からキラキラと蛍光灯を受けて輝いた。

「奉られるわけだ……」

不良といった言葉がしっくりくる存在ならば、この学院では鼻つまみ者と行きたいところだが、彼の容姿はずば抜けている。

品良く整った他の生徒たちにはない、独特の美しさ。

イメージはそう。

野生に生きながら、しなやかな美貌を持つ黒豹。

目を乱暴に擦る『仁志様』にしばし見蕩れていた光だったが、そこで妙な感覚に襲われた。

頭の奥がざわりと騒ぐ。

以前、どこかで彼を見たことがなかっただろうか。

そう遠くない昔に、自分は彼をどこかで目にした気がする。

デジャヴュと呼ばれる類とは少し違う。

もっとずっと、明確なもの。

優秀な海馬を動かして、最近の出来事から脳裏に描いて行った光は、次の瞬間全身の筋肉を強張らせた。

コンタクトに覆われた眼が、限界まで見開かれる。

「アキ……」

光の声は、やはり教室の騒音に飲まれて行った。




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