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SIDE:仁志
「お前、何者なんだ」
自分の言葉に、対面の表情が凍りついたのが分かった。
長い前髪と眼鏡に隠されては、判然としないはずだったけれど、彼と共に過ごした短い期間の間に、それくらいの変化は分かるようになっていたのだと、今さら気付く。
七夕祭りのときから決めていた。
本当は先月のイベントが終了したら、すぐに問い詰めようと思っていたことだった。
綾瀬との件で余裕をなくし、今ままで先送りにしてしまっけれど、こうして決着がついたからには、こちらの問題も終わりにしなければならない。
光は何者であるのか。
最初はただの予感だった。
どこかで会ったことがある。
勘違いであると容易に一蹴出来る、極々普通の予感。
確信に変わったのは、もう随分と前のこと。
サバイバルゲームで見た彼の戦闘能力、そして三階からのジャンプ。
学外の友人から聞いた「キザキ」の話、後藤の逮捕。
光はキザキだ。
キザキは光だ。
確信した。
分かっていても、問い詰めることはしなかった。
無理だった。
何をどう聞けばいい。
光は二度も否定しているのに、彼は友人なのに。
それなのに、まるで疑うような問いかけをして、果たして許されるのか。
自分の考えをぶつけてもいいのだろうか。
聞きたい、聞けない。
聞けない、聞きたい。
聞かなければ、ならない。
袋小路に迷い込んで指針を失ったとき、背中を押してくれたのは恋した相手だった。
華奢な手が優しく柔らかく頭を撫でて、優しく柔らかく教えてくれた。
思っていることを、伝えるべきだと。
随分と時間がかかってしまってけれど、ここが期限だ。
仁志にとって、光はもう手放せない友人になりつつあるから。
だから、真実を問い詰めるのは、今しかない。
「お前は、誰なんだ」
もう一度言えば、フリーズしたままだった対面の存在が、微かに肩を跳ねさせた。
「……意味わかんないし。何言ってんだよ」
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