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担任が担任ならば生徒も生徒。
なるほど。
彼らも外見を判断材料の一番上に位置づけているらしい。
耳に飛び込んでくる言葉はひどいもので、気が弱い人間ならばトラウマ決定だ。
生憎、そんな繊細な神経は持ち合わせていないが。
初めての学校で、こんな仕打ちとは運がない。
どうせなら経験しないまま人生を終えたかった。
数時間前に武文に言われた言葉が蘇る。
自己嫌悪が滲む台詞は保護者の懺悔でもあると知っていたから、出来れば願いを叶えてやりたいところ。
しかし、これでは到底無理だ。
ひっそりと溜め息を吐き出す少年の横で、担任は騒ぎそのままに淡々と進めていく。
「はい、みんな高校生ですから表面上だけでも仲良くしてあげて下さいね」
教育者として、その発言はどうなんだ。
学校には社会適応力を身に着けさせる役割もあったと思うが、これがそうなんだろうか。
いや、すでに光は実感し始めている。
景観を見た武文が言っていたはずだ。
碌鳴学院はアウトロー……違う。
イレギュラー。
特殊な空間なのだ。
教師も生徒もおかしいのだろう。
早くも光は諦観の目だ。
「席は……そうですね。仁志くんの隣、窓際の最後尾を使ってください」
須藤が言った瞬間、教室内の騒ぎは一段と酷くなった。
それは窓ガラスが振動するほどで、よく隣の教室から苦情が来ないものだと思う。
「最悪っ!なんでアイツが仁志様の隣なわけっ!!」
「死ねよ、転校生っ!」
「仁志様が穢れるぅ〜っ!!」
死ねと言った奴、言い過ぎだ。
嵐のように室内を埋め尽くし掻き回す罵声の内容を、光はどうにか理解しようとした。
様々な生徒の言葉が混ざり合い、互いに打ち消しあうせいで、困難を極めたけれど、断片的に拾い集めて情報を作り上げる。
どうやら、須藤が指定した自分の席の隣には、『仁志様』と崇拝される生徒が座って居るらしい。
「俺のせいじゃないだろ……」
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