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「あれって、ま、麻薬なの?ただの媚薬なんじゃないのっ?」
「ここまで来てとぼけても……」
「違うっ!ほ、本当に……知らなかったんだっ。あれが、そんな……」
思わず言葉を失ったのは、光の方だ。
一体どういうことだ。
霜月の様子は、観察眼の鋭い光ならば分かってしまう。
本当に彼は知らなかったのだ。
麻薬であることなど露ほども知らず、真実媚薬と信じて使っていたに違いない。
頭の中が混乱しかける。
「なら、どこでアレを手に入れたっ」
「へ、部屋にいきなり……寮の部屋にいきなり届いて。た、沢山……」
「差出人は?」
「宅急便じゃなくて、ただ部屋の前に置いてあっただけだから、名前も何もわ、分かんない」
唇を戦慄かせる少年は、やはり嘘をついているようには見えなくて。
何がなんだかまるで掴めない。
突然部屋に届いた?
インサニティが?
なぜ?
宅配便でないなら、霜月にインサニティを与えたのは、やはり学院関係者だ。
けれど安価とはいえ巷では売買されている立派なドラッグを、無償で他人に押し付ける意味が分からない。
ドラッグへの道が開けると思ったのに、引き当てたのは更なる謎だなんて。
複雑怪奇な事実に意識を傾け思考の海を漂っていた光は、するりと頬を撫でた霜月の手に、慌てて我に返った。
どうしたと言うのかと、肩を掴んで引き離す。
「綺麗……」
「え?」
鼓膜を打った賞賛の言葉。
陶然とした目つきでこちらを注視する霜月は、じっと光の顔を見上げていた。
うっとりと呟かれた内容に、何を言っているのかと首を傾げかけて。
「素顔、隠してたんだ」
気付く。
バッと目元に手をやるも、あるべきものがそこにない。
否、なければならないものが、ない。
乱闘で滅茶苦茶になった部屋を振り返れば、壁際に投げ出された黒縁眼鏡を見つけた。
最後の生徒に吹き飛ばされたとき、威力で眼鏡が外れ飛んでしまったのである。
霜月を放り出し急いで眼鏡に駆け寄って装着。
ヤバイ。
素顔を見られるだなんて、なんてことをしてしまったんだ。
調査員としてあってはならぬ事態に、鼓動が速度を上げる。
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