そう思ったのと、脇腹に凄まじい衝撃を感じたのは同時だった。

条件反射で出した防御のおかげで直撃は免れたものの、光の華奢な体が吹き飛び壁にぶつかる。

「っかほ……っ」

ガードした腕にがくがくと震えが走り、暫時感覚が飛ぶ。

回復を待つ時間などあるはずもなく、戦闘本能を漲らせながら態勢を直し前方を睨んだ。

相手は弱った獲物を捉えて、残忍な笑みを浮かべている。

癇に障る口元に、俄然負ける気が失せた。

ダメージを被った自身の体を鼓舞し、床を蹴りつけ走り出す。

予想外のスピードに面食らう男に向かって、短い助走にも関わらずバネを使った高い跳躍からの蹴り。

相手のこめかみに照準を合わせた攻撃は、敵の脳を振動させた。

「はがっ……!」

ドシンっと盛大な音を立てて倒れた男は、白目を剥いて昏倒していた。

身軽さは光の一番の武器。

スピードを始め、曲芸染みたアクションだって容易にこなせる。

その分、敵からの攻撃に対し弱いのも事実だった。

細い体躯に鋼の防御力が宿るはずもなく、まともに食らえば先ほどのように衝撃を殺せない。

だから、出来る限り急所を狙った技を使い、速攻で相手を翻弄する。

敵の攻撃を避けるのが、光が勝利するための絶対条件と言っても過言ではなかった。

脇腹がズシリと重い。

肩で息をしながら、ぼろぼろの体をやっとの思いで動かし、部屋の隅で硬直した少年を視界に映した。

「ひっ……」

短く息を呑む音。

足取りは覚束ないものの、光の眼光は鋭いままだ。

怯え萎縮した霜月を壁際に追い詰めると、バンッと顔横に手を突いた。

「あとは、お前だけだ」
「ま、待って、待ってよ僕は……」

一体なにを言い訳するつもりなのか。

拙い釈明の言葉など求めていない。

光はぐっと顔を近づけると、間近にある霜月の瞳を覗き込んだ。

「インサニティを、どこで手に入れた」
「知らない、知らない知らない、そんなもの……」
「あの三人に渡したドラッグのことだ。どこで、誰から買った」

ふるふると頭を振っていた霜月は、しかしこちらの詰問に困惑の表情を浮かべた。

「ドラッグ……?」

まるで初めて聞いた言葉であるかのように復唱。

それからみるみる広がる驚愕の色。




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