愕然としていた少年は、今度こそ我に返った。

寸前の比ではないほど顔を赤くして、柳眉と共に眦を吊り上げた。

「何が違うって!?僕の、何がっ……!」

噴出した怒りで喉が塞がれたように、少年は先を続けられない。

わなわなと震える小さな双肩が、彼の感情の強さを主張する。

その様を見つめる光の視線は、あまりに冷静だった。

穂積に恋をしている。

そう語った霜月が信じられなかった。

どうしてそう思えるのか、少しも分からない。

彼の言う「恋」と、自分が知り始めている「恋」は別物なのかもしれないと思いかけた。

けれど違った。

何も知らない光。

恋をしたことも、恋愛感情を抱いたこともない光。

眼前で怒りに打ち震える少年を、否定することなど本当ならば出来ないはずだ。

それなのに、分かってしまう。

何も知らない光でさえ、分かってしまう。

だって光は気付いてしまったから。

霜月と「彼ら」とでは、歴然とした差があることを。


――僕は彼を『友達』というカテゴリーに入れたくないみたいだ


仁志に「恋」する綾瀬。


――脈打つ鼓動が早くなったり、どうしようもないほど幸せなのに、少し悲しくて、切ない気分になったり


「恋」を語った歌音。

光は知っている。

はにかんだように笑う、彼らの微笑の美しさを。

澄んだ水面を思わせる、透き通った感情の煌きを。

切ないほどに感じた、他者に心を傾ける一途で清らかな想い。

では霜月からは?

霜月から受け取れたものは?

穂積のためだと責任の所在を棚に上げ、頼まれてもいない暴挙におよぶ身勝手な振る舞い。

盲目的に追いかける相手に接触した人間を、強制的に取り除こうとする醜い執着。

怒りと憎悪を滾らせる少年と、綾瀬たちに見出したものはあまりに異なっていた。

あの二人の想いを知った光に、どうして霜月の抱くものを「恋」と認められるのだろう。




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