◇
愕然としていた少年は、今度こそ我に返った。
寸前の比ではないほど顔を赤くして、柳眉と共に眦を吊り上げた。
「何が違うって!?僕の、何がっ……!」
噴出した怒りで喉が塞がれたように、少年は先を続けられない。
わなわなと震える小さな双肩が、彼の感情の強さを主張する。
その様を見つめる光の視線は、あまりに冷静だった。
穂積に恋をしている。
そう語った霜月が信じられなかった。
どうしてそう思えるのか、少しも分からない。
彼の言う「恋」と、自分が知り始めている「恋」は別物なのかもしれないと思いかけた。
けれど違った。
何も知らない光。
恋をしたことも、恋愛感情を抱いたこともない光。
眼前で怒りに打ち震える少年を、否定することなど本当ならば出来ないはずだ。
それなのに、分かってしまう。
何も知らない光でさえ、分かってしまう。
だって光は気付いてしまったから。
霜月と「彼ら」とでは、歴然とした差があることを。
――僕は彼を『友達』というカテゴリーに入れたくないみたいだ
仁志に「恋」する綾瀬。
――脈打つ鼓動が早くなったり、どうしようもないほど幸せなのに、少し悲しくて、切ない気分になったり
「恋」を語った歌音。
光は知っている。
はにかんだように笑う、彼らの微笑の美しさを。
澄んだ水面を思わせる、透き通った感情の煌きを。
切ないほどに感じた、他者に心を傾ける一途で清らかな想い。
では霜月からは?
霜月から受け取れたものは?
穂積のためだと責任の所在を棚に上げ、頼まれてもいない暴挙におよぶ身勝手な振る舞い。
盲目的に追いかける相手に接触した人間を、強制的に取り除こうとする醜い執着。
怒りと憎悪を滾らせる少年と、綾瀬たちに見出したものはあまりに異なっていた。
あの二人の想いを知った光に、どうして霜月の抱くものを「恋」と認められるのだろう。
- 246 -
[*←] | [→#]
[back][bkm]