「君が予定外の行動を取ってくれるからさ、僕直々に手を下すことになっちゃったじゃない」

左右を長身の生徒に守られた少年は、さながら女王のようで、光は目を眇めた。

「どういう意味ですか?」
「それを教えて、何か僕にメリットがあるわけ?」

冷ややかに返されるも、脳内では少ない情報でどうにか真相を突き止めようと、思考が高速回転し始める。

霜月の物言いでは、今回のサマーキャンプで彼が自分を潰そうと画策していたように受け取れた。

だが、実際に光を拉致しようとしたのは、会計方筆頭の親衛隊たちだ。

逸見との関係は、霜月の反応を見た限りあまり良好だとは思えない。

予定外の行動、彼の穂積への態度、親衛隊。

「霜月先輩は、補佐委員……なんですか?」
「あれ、言ってなかったっけ。そうだよぉ、僕は補佐委員会副委員長、そして会長方筆頭さ」

最後の肩書きに、浮かんでいた仮定が真実へと変貌した。

彼が、会長方筆頭。

先月、光を陥れようと仕掛けられた罠の首謀者。

そして、インサニティへ繋がる大きな鍵だったとは。

「逸見先輩の親衛隊に、俺を拉致させようとしたんですね。けれど、実際に捕まったのは綾瀬先輩だった。だから、貴方たち会長方が直接動くしかなかった。前回のことで生徒会に目をつけられているはずです。顔を出してよかったんですか」
「君さ、何得意げに謎解きしてるわけ?だいたい、自分の立場分かってるの?お前さえ黙ってれば僕らが処罰されることはないんだよ!」
「いっ……!」

振り上げられた霜月の華奢な手は、勢いに乗ったまま光の頬を張った。

咄嗟に引き結んだ歯のお陰で、口内を傷つけることはなかったけれど、叩かれた部分がビリビリと熱く痺れる。

室内に響いた笑い声が、一時的に遠のいた聴覚を揺らした。

「哉琉ちゃんヒステリー!」
「うるさいよ。あぁもう、汚いの触っちゃった」

不愉快そうに顰められた顔は、転校生への嫌悪を如実に物語っていた。

光は軽く首を振って気を正すと、強い視線で霜月を見据えた。

先ほどの一撃がまるで効果を示していない事実に、相手の表情が僅かに動揺する。

「先月のことも、お前がやったんだな」

敬語を取り払った低い問いかけに、部屋の面々がぎょっとするのが分かった。

真っ先に立ち直ったのは霜月で、一瞬でも怯んでしまった自分を恥じるかのように、大袈裟に声を上げた。

「それがなにっ?」
「インサニティを、どこで手に入れた」
「は?なにそれ」
「とぼけるな。あの三人に飲ませたクスリのことだ」

外見に反した強気な態度に面食らっていた少年は、しかし光の追求に眉間を寄せた。

「そんなの聞いて、どうするつもり?まさか気に入っちゃったと……」
「質問に答えろ」

下らない戯言に付き合う余裕はない。

求めて止まぬドラッグへの重要な手かがりが、今目の前にあるのだ。

きっぱりと遮ったのと、霜月の頬にサッと朱が走ったのは同時だった。




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