◇
「はい、綾瀬副会長捜索にあたっていた副会長及び会計方、そして書記方とも連絡が付きました。ただ、会長方だけ繋がりません」
「なん、だと……」
「副会長拉致が発覚した段階で、会長方をマークしていた部下たちは少数を残して捜索の方に回したんです。未だ監視にあたっているはずの者も携帯に出ないので、恐らく……」
「やられたか」
最悪の事態だ。
会長方ならば霜月が関わっているのは確定。
彼が相手ならば犯行現場を押えるしか処罰への道はないと言うのに。
第一、彼が直接手を下しているかも怪しい。
また前回のように捨て駒にやらせていないとは限らない。
そうなれば諸悪の根源を、また追い出すことが出来なくなる。
「綾瀬副会長の件で使われたのは、旧管理人室。他に誰かを連れ込めそうな場所と言えば、三つくらいですか」
「いや、発電施設の一つだ。俺が動いていた方面には、恐らく奴らは行かないだろう」
今も稼動している発電施設には、当然ながら防犯カメラが設置されている。
歌音に調べさせようとしたとき、携帯が着信した。
「どうした」
『カメラがあるところは全部確認したけど、どこにも長谷川くんの映像はなかった』
「発電施設もか?」
『うん』
歌音の報告に、穂積は眉間にシワを寄せながら、視線を背後へと廻らせた。
山中にある無人小屋ではないとすれば、残る場所は一つ。
そして無数。
「コテージか……」
零せば逸見はぎょっとした表情で、穂積の目の先を追った。
「歌音、会長方の人間が宿泊しているコテージはいくつある」
『ちょっと待って』
パソコンのキーボードを叩く音が聞こえてきた。
「本気ですか?人数は少ないですが、コテージの数はそれこそ無数にある。会長方のものに絞っても、三十はあります」
逸見の意見は尤もだ。
おまけにコテージは点在しているから、一つ一つ確認して回れば間に合わないだろう。
『お待たせ。全部で三十二棟だよ』
「コテージ番号を俺と逸見にメール送信してくれ」
やはりそれだけの数がある。
補佐委員会中最大の人数を誇る会長方だ。
サマーキャンプに参加している人間が少ないと言っても、参加者の半数は穂積信者で占められているのだから納得の数字。
だが。
通話を終わらせ走りだした穂積の背を、逸見が追ってくる。
「これだけの数、見て回るのは難しいぞっ!」
無謀だと訴える相手の口調は、仕事中決して崩れることのない敬語が消えていて、穂積は口元を緩めながら後方を振り向いた。
「肝試し中なんだ。灯りが洩れているところが、怪しいだろ」
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