身に覚えはないけれど。

些か強引に自身を納得させていると、須藤がポツリと呟いた。

「長谷川くんは、容姿のわりに反応が可愛いね」
「はい?」

一人懸命に考える光を観察していた担任は、はりぼての笑みに微量ながら本物の笑みを乗せた。

「あ、あの……」
「気にしなくていいよ、そんな気はまったくないから」

『そんな気』がどんな気なのかまるで分からない光だったが、須藤がピタリと足を止めたので、それに倣った。

引き戸の横に『2−A』と銀プレートに金字で彫られている。

「はい、到着。おいで」
「……はい」

消化不良のままではあるものの、少年は大人しく従い、須藤の後についてガラリと開けられた教室の扉を潜った。

すると一気に感じる強烈な視線の数々。

学校と言うものは、転校生に過剰反応するものなのだろうか。

ぐっと腹に力を込めて教卓脇に立つと、光はざわざわと騒がしい教室に視線を廻らせた。

見渡す限りの男子生徒。

男子校なのだからあたり前だが、しかしあまりむさ苦しく感じないことに、光は驚いた。

それもそのはず。

「なんか……美形率…高い」

口の中だけで零した言葉は、真実だ。

生徒の半数以上が、顔立ち優秀生なのである。

入学審査に顔も含まれるのではないだろうか、と思わせるくらいだ。

ちらほらと女子と見紛うような生徒までいて、ぎょっとする。

変装している光は彼らと比べるまでもなく、ビジュアル劣等生。

須藤が自分にきつく当たった原因を、光は否応なしに実感させられた。

「はい、煩いですよー。特に連絡事項はないので、転校生の紹介をしたらSHRは終わりだから、少し黙って下さいね」

担任が穏やかな口調でクラスを宥めると、ピタリと話し声が止む。

これはこれで嫌なもので、光は横目で担任を睨んだ。

わざわざやりにくい空気を作ってくれるな。

「はい、転校生くん自己紹介をどうぞ」
「……長谷川 光です。よろしくお願いします」

含みのある須藤の声に応じるように、短く挨拶をする。

仕事を聞かされて以来、何度もシミュレーションしてみたが、どうも上手い言葉を見つけられず、つまらない文言になってしまったが仕方ない。

少年の声が静かな教室に落され、そして消えていった。

「うっわ……なにアレ。ネタだよね?」
「期待して損した〜」
「前見えてんのか?ヤバくねぇ、あの眼鏡」
「真面目にキモイっ。あ、こっち見たっ!見んなよ腐るっ」

視線で腐るとは、どういうことだ。

湧き上がった悪意の数々に、光は瞬間的に戸惑った後、見つけた答えに頭痛を覚えずにはいられなかった。




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