用件は以上だな、と通話を打ち切ろうとしたこちらに、仁志は最後に焦ったように言った。

『ちょ、ちょっと待って下さい!』
「なんだ」
『……着替えの用意も頼みます』

顔が強張った。

洩れる会話から綾瀬が発見されたことを察したのだろう。

穂積の様子を窺いながら、会計方を動かすべく電話をかけだした逸見が、一変して硬くなった生徒会長の纏う空気に眉を寄せる。

「それは、どういう意味だ」
『未遂です』

男の気配は電話の先にも伝わったらしく、聞こえた一文もまた硬かった。

返答に携帯電話がギシリと音を立てた。

一つ息を呑むことで衝動を殺す。

「……わかった、お前らはまっすぐコテージに戻れ」

どうにかそれだけ返し、電源ボタンを押した。

怒気を逃がすように息を吐くこちらに、すかさず逸見が問いかける。

「どうしました?」
「正面ゲート付近の守衛小屋に人を回せ。綾瀬はそのままコテージに戻す」
「分かりました、各方に伝えます」

再び携帯電話を耳に当てる逸見の横で、穂積もまたメモリーからある番号を呼び出した。

まだ必死に山中を走り回っているであろう存在に、綾瀬が見つかったことを知らせなくては。

生徒会役員でもないあの少年には、今回の一件では随分世話になった。

お礼くらいは言うべきか。

何て考えた男は、いつまで経っても止まらぬコール音に首を傾げた。

走っているから気付かないのかもしれない。

発信履歴からもう一度コンタクトを試みる。

二度目は確かにコール音は聞こえなかった。

それなのに、穂積を強襲したのは不吉な予感。

光へとかけた電話が紡いだ内容は。

『お客様のおかけになった電話番号は、現在電源が切られているか電波の入らない場所に―――』

おかしい。

先ほどかけたときは、誰が電話に応じることもなかったけれど、電源は切られてなどいなかった。

たった僅かの間で、なぜ合成音声を聞くことになったのだろう。

山中と言えど、そこは碌鳴所有。

キャンプ場の電波状況は、決して悪くない。

電波の入らない場所ではないのだ。




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