三十二棟。




SIDE:穂積

約束の三十分から僅かばかり遅れて広場に戻って来た穂積は、こちらへ駆け寄って来る人影に気付いた。

異変があったことを他の生徒たちにまで悟られるわけにもいかず、自分たちの代役を立てて肝試しは続行中。

順番待ちをする生徒をさり気なく通り過ぎながら、現れたのは転校生ではなかった。

「逸見」
「副会長方と会計方、それと書記方にも連絡をとりました」
「書記方?あれは長谷川を敵視しているはずだぞ。今回のことに絡んでいる可能性はないのか」

訝しげな目を向けると、逸見は「いえ」と首を振る。

思いがけない言葉を口にした。

「一部ですが、長谷川への警戒を解いた者もいるんです。私の方で確認済みです」
「随分いきなりだな。あいつが何かやったのか?」
「いえ、そこまでは……ですが、未だ長谷川を目の仇にしている会長方以外は、動いています。そちらもまだ、見つかっていないようですね」

どうも釈然としない気もしたが、穂積は火急を要する事態に険しい表情で首肯した。

自分の担当した方面の心当たりは粗方探した。

このキャンプ場には使われていない小屋や、発電施設、打ち捨てられた元守衛室など、拉致にはうってつけの場所が幾つもある。

その全てに監視カメラがついているはずもなく、綾瀬がどこに連れ込まれたのか、未だ判明していない。

長谷川と間違えられたのなら、彼が正体を明かせば生徒たちは綾瀬を開放するかもしれないが、手出し無用を勧告されている存在へ危害を加えた決定的現場に居合わせられたとなると、犯人側が逆上しないとも言い切れなかった。

一刻も早く、綾瀬を探し出さなければならないのに。

光にこの件を教えられた仁志の動向も、気になっていた。

もし彼が綾瀬を見つけたとして、理性を保っていられるだろうか。

重苦しい想像は心臓を鉛の重さに変える。

穂積はまだ姿を見せない光に舌打ちをした。

「あのゴミ虫、遅刻なんていい度胸だ」
「会長、目が笑ってません」
「黙ってろ」

さっさと探しに行ってもいいが、自分から強く言い出した手前抵抗がある。

兎に角召集をかけるかと、携帯電話と取り出したのと、今まさに手にしたものが着信を告げたのはほぼ同時だった。

ワンコール目で素早くを通話ボタンを押して耳に当てる。

相手が誰かなど見なかった。

今かけて来る人間の中で、重要でない相手はいないからだ。

「もしもし」
『あ、もしもし。俺です、仁志です』

流れて来たのは生徒会役員の声。

やけに落ち着いた調子に、違和感を覚えた。

「どうした。今どこにいる」
『正面ゲート付近の旧守衛小屋です。綾瀬先輩発見しました』
「……っよくやった。状況は?」
『あー、怪我人多いんで、人寄越してもらえますか。入れ替わりで俺らもそっち戻ります』
「分かった、すぐに向かわせる」




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