よく知っている。

だが同時に、畏敬の存在でもあるのだ。

綾瀬は生徒会副会長。

学院のナンバー2。

それを今、彼らはどうすると言った?

不自然な静寂が、数秒の間部屋を満たし。

次の瞬間、唐突に動き出す。

「滸っ!」
「ちょっ、離してっ!やめろっ……っ」
「おい、そっち手ぇ押さえろ!」
「寺内ぃ、んながっつくなっつーの」

数人がかりで肩を押され、腕を掴まれ、足を払われる。

身を捩ってどうにか右腕が自由になるも、口付けようとする男の顔を、ガシッと押し返すことでまたしても塞がる。

「や、めろ……こんなことして、自分たちがどうなるか分からないのっ!?」
「あーぁ、副会長かわいそー。寺内理性キレてっから、痛いかもねぇ」
「ほら暴れんなよっ、おいしっかり掴んどけ馬鹿!」

綾瀬が習得しているのは護身術だ。

対複数戦を想定したものも、幾つかあるにはある。

だが、明らかに体格でも腕力でも勝る相手に対して、どう出ればいいかまるで分からない。

足首が掴まれ床に貼り付けられる、左腕は膝で固定されているし、正面には今にも唇が触れ合う距離に男が迫っていた。




- 232 -



[*←] | [→#]
[back][bkm]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -