◇
よく知っている。
だが同時に、畏敬の存在でもあるのだ。
綾瀬は生徒会副会長。
学院のナンバー2。
それを今、彼らはどうすると言った?
不自然な静寂が、数秒の間部屋を満たし。
次の瞬間、唐突に動き出す。
「滸っ!」
「ちょっ、離してっ!やめろっ……っ」
「おい、そっち手ぇ押さえろ!」
「寺内ぃ、んながっつくなっつーの」
数人がかりで肩を押され、腕を掴まれ、足を払われる。
身を捩ってどうにか右腕が自由になるも、口付けようとする男の顔を、ガシッと押し返すことでまたしても塞がる。
「や、めろ……こんなことして、自分たちがどうなるか分からないのっ!?」
「あーぁ、副会長かわいそー。寺内理性キレてっから、痛いかもねぇ」
「ほら暴れんなよっ、おいしっかり掴んどけ馬鹿!」
綾瀬が習得しているのは護身術だ。
対複数戦を想定したものも、幾つかあるにはある。
だが、明らかに体格でも腕力でも勝る相手に対して、どう出ればいいかまるで分からない。
足首が掴まれ床に貼り付けられる、左腕は膝で固定されているし、正面には今にも唇が触れ合う距離に男が迫っていた。
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