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「まさか、君たちも……。歌音・アダムスに、手を出したんだね」
「……っ!」
断定の物言いに、室内に響いた息を呑む音。
何よりの自白。
綾瀬は大きく息を吐いた。
なんてことだ。
自分の遭遇したあのときだけでなく、歌音が彼らからも絡まれていたとは。
先ほど決めた処分は、今や「退学」の二文字に変化していた。
「生徒会役員に手を出すことが、どういうことか……分からないはずがないよね。君たちのお友達が、ついこの間処分されたんだから」
「それ、は……でもっ!」
「何の言い訳?これ以上何かを言って、自分の首を絞めたいの?」
冷ややかな口調で跳ね除ければ、塚本は悔しそうに唇を噛み締める。
小柄な少年たちの他に、部屋には長身の生徒も何人かいたが、彼らは事態について来ている気配もない。
背も低く力のなさそうな少年たちに、綾瀬をここまで運べるはずもないだろうから、恐らく長谷川を拉致するためだけに雇われた、歌音の件とは無関係の実行犯役なのだろう。
彼らの処分は、当初予定していた謹慎で十分か。
そう判断しながら、綾瀬は穂積に連絡をつけるため、制服のポケットから携帯電話を取り出し、スライド式のそれを開いた。
「え……?」
見つけのは、三十数回に渡る着信履歴。
自分が連れ去られたことが騒ぎになったのだと気付き、急いで発信元を確認して。
「嘘……」
胸が、痛くなった。
履歴の欄には同じ名前ばかり。
ディスプレイ一杯に羅列された名前に、身内に熱い波が湧き上がる。
『仁志 秋吉』
繰り返すスクロールの先まで埋められた文字は、鋭い眼光を持つ後輩の名前だった。
「……ねぇ、寺内くんさぁ。副会長のファンだって言ってたよね?」
言葉にならぬ想いを抱える綾瀬には、そのとき塚本が長身の生徒に告げた内容が、まるで別世界のことのように聞こえていた。
「ならさ、アレ……犯っちゃっていいよ」
「お、おい。塚本なに言って……」
「好きなんでしょ?僕のこと抱きながら、「滸、滸」って五月蝿かったし。人数だっているんだから、簡単だよ。写真撮っちゃえば脅せるし……上手くしたら、この先ずっと……君の言いなりになるかもよ」
ひどく甘美な誘惑だったのか。
寺内と呼ばれた男の喉仏が、上下に動くのを見てしまった。
彼らが何を言っているのか。
今の綾瀬には、理解の範疇を越えている。
生徒会役員は、全校生徒の敬愛対象だ。
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