ようこそ、碌鳴学院へ。




「失礼します」

職員室の扉を開けば、一斉に視線が向けられ、光は思わず後退りそうになった。

が、こちらの姿を確認し終えたのか、幾つもの目が散って行ったおかげで、何とか堪えることに成功した。

間垣のツテで編入することになった光は、理事長室を出たあと、真っ直ぐに本校舎にやって来た。

門前から見えた洋館が本校舎と呼ばれる建物であり、職員室や事務所、学生食堂などと言った施設がある。

本校舎の他に西棟、東棟と呼ばれる校舎がコの字を描くように存在し、造りはそう複雑ではない。

予め脳に入れておいた間取り図と照らし合わせている光だったが、見かけぬ生徒に気付いた男性教員が、手招きをしていることに気が付いた。

慌てて小走りで駆け寄ると、男は少年の頭から爪先までさっと目を通してから、にっこりと微笑んだ。

「転入生だよね?見ない顔だし」
「はい、今日からお世話になる長谷川 光です」
「名前負けしてるって、よく言われない?」
「はい?」
「いや、何でも。僕が君の担任になる2−Aの須藤です」
「……よろしくお願いします」

思わず聞き返してしまったが、自分が何を言われたかは、ばっちり理解している。

つまりは、地味の二文字を背負った自分の名前が、『光』ってどうなのよ?と、言いたいらしい。

にこにこ無害そうに笑っておきながら、大きなお世話以外の何ものでもない発言を初対面でかました須藤に、光は不本意な内心を堪えて、ペコリと頭を下げた。

それをどこか満足そうに見てから、須藤は出席簿を手に席を立つと、光を先導するように職員室を出た。

「そろそろ朝のSHRだからね。今日は特に言うこともないし、一緒に入っておいで」
「はい」
「緊張してる?」

すでに生徒は教室に居るのか、人気のない廊下を進む。

校舎内は外観とは異なり近代的で、塵一つない清潔さを除けば至って普通だ。

光は少しはにかんだように笑って見せた。

「友達が出来るかどうか……少し不安なだけです」
「あぁ、それは難しいと思うよ。不安になって当然だ」
「………」

またもや失礼な物言いに、光は今度はぐっと眉を寄せた。

チクチク刺される小さな嫌味。

どうして出会ったばかりの相手に、馬鹿にされなければいけない。

須藤が最初に品定めするかのように自分を見たのを思い出し、ビジュアルがいけないのだろうか、と光は心の中で疑問符を浮かべた。

確かに、今の自分は不恰好であると自覚している。

黒髪黒縁眼鏡はやり過ぎなほどで、清々しい碌鳴の制服の魅力を半減させていた。

だが、人の外見など様々だし、教師が容姿で差別するとは思いたくない。

もしかしたら、気付かぬうちに失礼を働いてしまったのかもしれない。

そうだ、そうに違いない。




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