「君たちがどんな理由を持って、長谷川くんを拉致しようしたのかは知らない。でも、今後彼に危害を加えるようなことがあれば、容赦しないよ」

言いながら、彼らの処遇は謹慎が妥当なところかと考える。

一瞬、金髪頭の後輩が冷酷な退学宣告をした映像が、脳裏を掠めた。

今回の件では、実際に連れ去られたのが綾瀬だったとは言え、彼らの本当の標的は生徒会役員ではなく、一般生徒の光だった。

加えて、拉致した相手が綾瀬だと気付くや、彼らは確実に不味いと思っていた。

これに懲りて、今後長谷川に対して何かするとも思えない。

最初に薬品を嗅がされた以外、これといった被害も受けてはいないし、退学に処するほどでもないだろう。

当初から「生徒会役員」を狙っての犯行ならば、絶対組織に逆らった粛清として首を切らねばならないが、そうでないならばあまり重い処分を下す必要もあるまい。

「ちょ、ちょっと待って下さい!」

淡々と思考を進めていた綾瀬だったが、しかしこちらの言葉で我に返った生徒の一人が、急いた調子で口を開いたことで、意識を浮上させた。

「なに?君は?」
「三年の塚本です。あの、確かに僕たちの行動は間違っていましたけど……でも、それならあの転校生だって処分されるべきです!」
「……どういう意味かな」

小柄な塚本は、脇を固める同じように小柄な生徒たちに目配せをする。

彼らはコクンと頷き合うと、強気な視線を寄越した。

「僕たち、長谷川 光に暴力を受けたんですっ」
「そうです!彼なんてお腹を蹴られて、暫く通院していたくらいで……」
「僕らが処分を受けるなら、アイツだって厳重な処罰を受けなきゃおかしいですっ!」

ここぞとばかりに勢い込んで言われて、綾瀬は目を見張った。

動揺が色濃く現われた姿に、塚本たちはもう一押しとでも思ったのか。

尚も言い募ろうとして。

「君たち、誰かに手を上げたんだね」

言葉を失った。

再びサァと青褪めていく少年たちの顔に、確信する。

「長谷川くんは無意味に暴力を振るう子じゃない。―――君たち、誰に手上げたの?」

光の戦闘能力を、綾瀬は知らない。

しかし、あの転校生が理由もなく他者を傷つけるとは、とてもじゃないが思えない。

七夕祭りの体育倉庫で、自分に襲いかかった男子生徒たちも、また被害者だと気付き必死に仁志の暴走を止めさせようとした光が、闇雲に暴力を振るうはずがない。

つまり、逸見の親衛隊が本当に光によって傷を負ったのならば、彼らが拳を受けるそれ相応の理由があったと言うことだ。

そして、日々被る嫌がらせの数々をさらりと受け流している彼が、敵意を振り払う以上の暴力に打って出るのは、決して自分のためではないはず。

眼前の少年たちは、「誰か」に実力行使を働き、その結果光によって「暴力」を受けた。

いいや、暴力では御幣がある。

正当防衛。

これだろう。

では、被害対象の「誰か」とは?




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