彼らの怒りの矛先は、光にあるのに。

光に向けられるべきものなのに。

仁志と向き合わせるためにとは言え、なんて提案をしてしまったんだ。

意味がないと知りつつも、後悔は高波のように迫り来て、今にも少年の心を攫ってしまいそうだった。

このキャンプ場に光が来たのは、勿論初めて。

事前に調べた地図で大体の構造は把握しているが、人を匿えそうな場所に心当たりなどない。

それでも走らずにはいられない理由に、彼が無理にでも排除しようとしている「焦り」が含まれている事実に気が付いたのは、遊歩道に飛び出したときだった。

「はっ……はっ……あ、やせ先輩……」

穂積と別れてどれくらい経ったのか。

息を整える意味も込めて足を止め、携帯電話を取り出した。

暗闇に灯るディスプレイの明かりに、目を瞬く。

「二十分……」

結構な時間を全速力で走っていたようだ。

必死だったせいか、忘れていた疲れが今になって襲い来る。

全身から汗が噴出し、顎を伝う一滴を袖で乱暴に拭った。

落ち着け、落ち着け。

こんな状態では駄目だ。

ある程度当たりを付けてから動かなければ、見つかるものも見つからない。

そっと目蓋を下ろし、深く息を吸い込む。

湿気のある夏の気だるい空気が、肺に満たされる。

それでも何度か深呼吸を繰り返せば、大分心は凪いだ。

もっときちんと頭を動かそう。

記憶には薄いが、確かどこかに使われなくなった管理人室があった気がする。

ここからはまだ随分距離があるが、行ってみる価値はありそうだ。

指針を定め、最後の一息を吐き出そうとしたとき、けれど衝撃は来た。

「はっ……あぁっ……っ!」

焼け付くような熱さを腰に感じ、そこから全身に広がった容赦のない突き抜けるような感覚。

過去に何度か受けたことのある攻撃に、光は霞む視界を最後の力で背後へと向けた。

落とした視線の先。

あぁ、やっぱりそうだった。

碌鳴の制服を来た男子生徒がこちらに押し付けていたものは。

「スタ……ガ……ん」

意識を手放す直前、耳奥で木霊したのは穂積の声。


――いいか、絶対に連絡しろ。一人突っ走ることは、認めない


ほらな、出来ない状況だってあるだろう?




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