連絡不可能。




迂闊だった。

どうしてこの可能性を予測できなかったのだろう。

自分が学院でどう思われているか、これまでの出来事から痛いほどよく分かっていたのに。

綾瀬と光に、体格の差はほとんどない。

互いに華奢で身長もほぼ同じ。

彼の衣装ならば自分にも丁度いいのではないかと思ったとき、自分の提案は二人にとってよい良い方向に流れるものだと疑わなかった。

それなのに。

「なに?会長方に動きはないだと。なら、どこが……そうか、分かった。詳しくは後で聞く。副会長方筆頭に綾瀬の携帯のGPSを追わせろ」

逸見との通話を終了した穂積に、光はビーチサンダルの足で地面を確かめながら訊ねた。

「拉致の犯人、会長方じゃないのか?」

会話の仔細は分からないながらも、彼の言葉は引っかかった。

自分と間違えて綾瀬が連れ去れたのなら、てっきり犯人は会長方若しくはその手駒だと思ったのだが、違うらしい。

幽霊衣装のままで綾瀬を探しに行こうとする光の姿に、穂積は暫時眉を顰めたものの、状況を鑑みた結果、大人しく求められた内容を返すに留めた。

「あぁ、直前まで逸見が監視していたが、違う。仁志の書記方でもない」
「じゃあどこが……。一般生徒ですか」

イベントに乗じて派手な動きをするのは、ある程度まとまった組織力を持つ補佐委員会の場合が多いが、ただの生徒が何かやらかさないとは限らない。

「一般生徒と言えばそうだが、違うと言えば違う」
「え?」

歩き出した穂積を追いながら、光は疑問符を発した。

動きにくいサンダル足で、危なげなく山道を踏みつける。

穂積はこちらを気遣った速度で分岐点まで来ると、どこか呆れたようにも見える表情で振り向いた。

「逸見の信者だ。お前、そんなところにまで嫌われてるのか」
「……身に覚えがないと言えたらいいんですけど」

無理だ。

事の実行犯が会計方筆頭のファンだとは盲点だったが、光にはしっかりばっちり彼らに恨まれる理由があった。

何せ二度に渡って、逸見ファンの制裁現場に乱入しているのだから。

内一回は、実力行使に出ている。

歌音を助けるためであったし、非は全面的に相手方にあるので気にする必要はなかったけれど、綾瀬に飛び火してしまったのは心底申し訳ない。

視線を地に落とし表情を翳らせた光を、穂積は探るように見つめた。

「奴らと何かあったのか」

光はぐっと口を引き結んだ。

言えない。

もし彼に話すとしたら、どうしたって歌音について触れなければならなくなる。

自分の腕をぎゅっと掴み、誰にも言わないでくれと懇願して来た愛らしい先輩を思えば、取るべき行動は沈黙のみ。




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