見上げるほどの鉄扉の先。

真っ直ぐに伸びた、煉瓦を敷いた並木道の奥。

異国情緒溢れる洋館が、その優美な顔を覗かせていた。

「バロック建築……?」
「知るか」

ボソリと適当に呟いてみたのは、少しでも衝撃を逃がそうとするためだ。

恐る恐る左右を確認すれば、真っ白な壁が延々と続き、この学院の広さを教えてくれる。

「なんて無駄金……」
「言うな。庶民の感覚は捨てないと、ここじゃ厳しいかもしれないぞ」

傍らに立つ男の顔も強張っているのを認め、教育機関を初めて体験する光も、本当にこの場所が異常なのだと悟らずにはいられなかった。

何てことだ。

最初の出会いが木崎曰く『アウトロー』とは。

「じゃ、後は頑張れよ。何かあればすぐ連絡しろ」

保護者はぎこちなく笑みを作ってみせると、無理やり平時の調子を取り繕った。

「わ、分かった。武文もしっかり街の調査しろよな」

同様に光も口角を上げる。

落ち着け、今からこんな風でどうする。

大きく深呼吸をすれば、僅かに頬の強張りが解けた気がした。

荷物は事前に送っているので、光はスクールバッグ一つを肩にかけると、運転席に戻る保護者に笑いかけた。

正直なところ、この仕事は乗り気ではない。

景観を見て更にその思いは強くなったが、当然それだけではなかった。

勝手の分からぬ組織、それも全寮制だなんて、やりにくいことこの上ない。

今まで以上の長期潜入は、容赦なく光の神経を削るだろう。

それでも自分に課せられた役割をよく分かっていたから、光は最後まで拒絶することが出来なかったのだ。

少年の笑顔に木崎は何かを感じ取ったのか。

窓を開けると、常にないほど穏やかに目元を緩めた。

それは同時に、抑えられぬ後悔に支配されているようにも見えた。

「……学校生活、満喫しろよ?」
「……っ」

息を飲む音が、驚くほど大きく聞こえたと認識したときには、すでに武文は車を発進させたあと。

ナンバープレートが離れて行く。

光はカーブですぐに姿を消した車を、鈍く痛む心臓を抱えたまま、見送り続けたのだった。




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