足の長さは当然違うため、すぐに距離は開いて行く。

霜月が長谷川潰しに関わっているのは確実で、あの新種のドラッグを保持しているのも間違いない。

ただ、現行犯で捕らえることが出来なければ意味がないのだ。

後から証拠を突きつけたところで、美味い具合にはぐらかされてしまうのは必至だし、絶対に言い逃れの出来ぬ状況を作る必要がある。

リスクは高いが、霜月にアクションを起こさせるのが、彼を学院から追い出すためには最善の策だった。

そのためには―――

煌々としたライトに照らされた広場を視界に捉えた穂積は、デッキに立つ人物に違和感を覚えた。

白い着物を纏った華奢な肢体は、綾瀬であるはずなのに、トレードマークとも言える背中まで伸びた甘栗色の髪がない。

一体どういうことなのか。

答えは穂積がデッキに立ったときに与えられた。

「あ、会長!」
「長谷川?……どういうことだ」

おどかし役の衣装を身に着けていたのは、生徒会副会長ではなく、夜色のボサボサ髪を持った転校生だったのだ。

怪訝そうな顔をするこちらに、どこか得意げな表情を向ける長谷川を見て、ピンと来た。

穂積の口元にも、相手とよく似た種類の笑みが刻まれる。

「なるほど、お前のペアは仁志だったな」
「そういうこと。俺が綾瀬先輩の代役ってことで、大丈夫ですか?」
「問題ないな」

言いながら彼の黒髪にポスンと手を置いた。

思いがけないアドリブは、文句なし。

つまりはこういうことである。

長谷川が綾瀬に変わり幽霊役を務めることで、仁志は最も逃げたい相手とペアを組むことになったのだ。

他人が介在しない本当の二人だけで、話をすることこそが、今の彼らには不可欠。

当人だけで向かい合ってしまえば、臆病な心さえ覚悟を決めるしかあるまい。

ここまでされて逃げるようなら、もう未練はないだろう。

「綾瀬は腹を決めたか」
「後は仁志次第ですね」
「あぁ」

言葉を交わしながらも、穂積の胸に最早危惧の思いは存在しなかった。

自分の認めたあの金髪頭が、背水の陣に立たされて尚、見苦しく逃走経路を模索する人間ではないと分かっているから。

長谷川もまた同じ気持ちなのか、長い前髪と眼鏡に隠された少年の面からは、少しも不安な気配は受け取れない。

穂積は最後に一つ笑うと、改めて相手の姿を確認し直した。

「……お前、その格好似合わないな」
「会長もジャージ姿、変ですよ」

互いが互いの格好を酷評する様子を、困惑と動揺に揺れる瞳が見つめていることに気付くものは、いなかった。




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