SIDE:穂積

「穂積様はどこで待機なさるんですか?」
「……指定位置だ」
「もー、それじゃ分かんないですよ。僕は折り返し地点付近なんですけど、やっぱり一人は寂しいかなって思うんです」
「そうか」

ちょろちょろと纏わりつく少年に、穂積は内心の苛立ちを押さえ込もうと必死だった。

生徒会役員と補佐委員会の一部はおどかし役に回ることになっているのだが、不安そうに揺れる眼を向けられても、神経がささくれるばかりである。

穂積にとっての霜月は、最も相手にしたくない存在だ。

彼率いる会長方の厳しい制裁があるお陰で、自分のファンの暴走が一定の抑制をされていることは知っている。

霜月自身、度々過激な手段を取っていると分かっていても、下手に邪険に扱うことも出来ない。

加えて一般生徒と異なり、補佐委員会副委員長という学院内でも確かな役職に就いているせいで、簡単に首を切ることは不可能だった。

だからと言って、隙あらばこちらに取り入ろうとする欲の視線は、長く耐えられるものであるはずもなく。

一人で夜道を歩くことを選んだ自分を、後悔せずにはいられない。

予想外にも美味しい長谷川の手料理を食べ、一度自分のコテージに戻った穂積は、先に集合場所へ向かった綾瀬を追う形で、肝試しの支度を整えて外に出た。

が。

謀ったようなタイミングで現れた霜月に「やだ、偶然ですね!広場までご一緒してもいいですか?」と、押し切られてしまったのである。

アレが偶然ならば、世の中の事象はすべて偶然で片付けられるだろう。

ちなみに、提案に対して穂積は何も返答していない。

目指す場所が一緒である限り、どんな理由をつけても逃げられる気はしなかったのだが、承諾するのも嫌だったのだ。

極力前方だけを見据えて足早に目的地へと進むも、霜月はこれ見よがしに小走りになって、健気さをアピールしてくる。

時折、呼吸を乱すところなどまったく見事なものだ。

「穂積様、もう少しゆっくり歩きません?まだ時間には余裕があるんですし」
「早目に着く分には問題ないだろう。お前は後からゆっくり来ればいい」
「気にしてもらえて嬉しいです!でも、僕は平気ですから心配して下さらなくても大丈夫ですよ」
「……お前の思考は、どうやって形成されたんだ」

上目遣いで見られていると気付いてはいたが、意地でもそちらを見る気はなく、穂積は霜月とは反対側に向かって、呆れたようにため息を吐き出した。

あぁ、最近はここまでしつこく絡まれることもなかったから、油断していた。

同じ3−Aと言ってもクラスに顔を出すことなど稀だったし、碌鳴館で毎日を過ごしていたから、普段の学院生活で彼と接触する機会はほとんどない。

生徒会役員と唯一堂々と顔を合わせられる毎月のイベントでも、ここのところは長谷川関係で忙しく、必然的に霜月をかわすことは出来たのだが。

「……さっさと証拠を掴むか」
「え?」

小さなぼやきに不思議そうな一音。

それに構わず、穂積は歩くスピードを速めた。




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