一緒に来た歌音は、呆れたようにため息をついたものの、相手が仁志ならば問題ないと判断したのか、二人のやり取りを無視して、硬直するこちらに向き直った。

「こんばんは、長谷川くん。今日はご馳走になります」
「あ、こんばんは。えっと口に合うか心配ですけど、気合入れて作りました」
「料理が出来るなんて、すごいね。寮に入る前はよく作ってたの?」
「……まぁ、それなりに。歌音先輩はしないんですか?」

碌鳴以前の自分の経歴は、長く語れるだけボロが出る危険が上がる。

短く締めて、逆に問い返した。

相手の容姿を見れば、自分よりもずっと手馴れていそうなのだが。

「残念ながら、さっぱり。調理実習以外で包丁を握ったこともないんだ」
「そうなんですか?」
「うん、どうも僕に刃物を持たせるのが心配みたいで、逸見もあまりさせたがらないし」
「なんていうか、逸見先輩って……」
「うん、過保護だよね」

口籠る光の感想を、歌音は苦笑しながら引き受けてくれた。

彼も気持ちは同じらしい。

自然と二人が流した目線の先では、涙目にも見える仁志と底意地悪い笑顔の逸見がいる。

「逸見が書記を辞退したのはね、僕の下で働きたかったからなんだ」
「あ……すいません」

当人のいないところでの話しを聞かれていた気不味さに眉を下げるも、歌音は笑顔で首を振ってくれた。

「有名な話だもの。……逸見が書記だった頃、彼はどうしても自分の仕事より、僕の仕事を気にかけていていたみたいでね、書記の仕事が片付かないってことは勿論なかったんだけど、僕を手伝えないことに不満を覚えていたみたい」

いくら優秀な逸見と言えど、自分に課せられた仕事をこなしながら会計のものを手伝うことは不可能だ。

生徒会の膨大な仕事量を考えれば当然で、逸見は歌音一人に構うことの出来ない環境が嫌だったのだろう。

「仁志くんとは、生徒会のみんな気心が知れていたし、彼を書記にするのがベストだって、穂積くんに言ってた。逸見が生徒会から抜けたのは、僕が原因なんだ」
「歌音先輩?」

呼びかけは遅く、歌音はこちらに背を向け、未だに攻防戦の続く仁志たちの仲裁へと回ってしまった。

小さな背中だけでは彼の内心を図ることは難しく、耳に残った最後の台詞が持つ響きだけが、少年の心にいつまでも浮かんでいた。




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