『生徒会書記』。




テーブルのセッティングも完了して、後は食卓につく人間を待つばかりになった頃、光はテラスのライトを点けた。

コテージの中で見つけたランタンにも火を入れ、六人が十分に使えるテーブルの中央に置く。

つい先ほど夕暮れかと思ったら、もう空は紫が濃い。

早くもチラホラと星が見え出している。

大自然の夜は日中の暑さも和らぎ、屋外での食事も問題なさそうだ。

テラスの柵に凭れ、暗闇を背景に街灯の灯ったキャンプ場を見回す。

ここからでは他のコテージが見えないが、学院の生徒たちは楽しく食事を始めたのだろうか。

それとも、調理に悪戦苦闘している最中だろうか。

またしても気になり出した光は、やっぱり見に行ってしまおうかと考えた。

さっさと行って戻って来れば、誰に気付かれることもないかもしれない。

樹木の生み出す闇を利用すれば、安全にことを運べる可能性は高いだろう。

エプロンを外しつつ思案していれば、こちらに向かって歩いて来る人影が一つあった。

街灯の光りに照らし出された金髪に、相手の正体を知る。

「仁志!」
「あ、おう」

呼びかければ、我に返ったように仁志が顔を上げた。

それにどこか違和感を覚える前に、彼が誰と一緒でもないことに気付いた。

穂積の話では、役員が集合したあと全員で来ると言っていたのに。

階段を上ってテラスに上がって来た男に、首を傾げる。

「他の人は?」
「あ?あぁ、会長が遅くて……綾瀬先輩は迎えに行ってる。歌音先輩は逸見先輩待ちだろうから、俺だけ戻って来た」
「そっか。見回りどうだった?この間の事件もあったから、警戒してるんだろ」

冷蔵庫から持って来たアイスティーをグラスに注いで、彼に手渡しながら訊ねるのは、光の仕事のためだ。

いくら穂積に一般生徒の介入を拒まれたからと言っても、光には光の事情があったし、首を突っ込まないと約束したわけではない。

ただの話の流れで、耳にしてしまった情報は、仕様がないだろう。

生徒会長様の言い分を気に入ってはいても、それとこれとでは話が別だ。

「まぁ、な。会長方は逸見先輩が牽制してるから、今回は大丈夫だろ」
「逸見先輩って、そんなにすごいのか?」

彼の言い方に、あの策略家を思わせる底知れぬ微笑を湛えた男が、思い出された。

「当然。本当なら俺じゃなくて、あの人が書記になるはずだったんだからな」
「え?」

衝撃的な内容に、ぎょっとする。

凝視した方角では、さっさと席に着いた男が平然とグラスに口をつけていた。

気負いのない様子からは、仁志が語った生徒会事情について何の含みも持ってはいないことが受け取れる。

「そんな驚くことでもねぇだろ。俺はまだ二年だし、逸見先輩だって生徒会役員に選ばれるだけの理由を持ってる」




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