今回の任務は、少し厄介なものだった。

ドラッグの売人を探し当てるのは、いつもと同じだが、今回は誰がバイヤーか見当もついていなかったのだ。

前回で言うならば、チームの頭である後藤が怪しい……と情報は与えられていたが、今度は違う。

ドラッグの名前は『インサニティ』―――日本語で『狂気』。

中高生を中心に広まっているこの薬は、強い催淫作用があり、主にセックスドラッグとして使用される。

バイアグラと異なり、服用後に外からの刺激がなくとも10分以内に身体が反応し、強い快感を覚えると言う代物で、資料に載っていた写真は、赤い25mg錠。

服用者の身体から独特の甘い香りが漂い、またその臭気だけでも長時間晒されれば催淫効果があるのだから堪らない。

一、二回の使用ではただの強力な媚薬みたいなものだが、何度も繰り返し使用するうちに、突然中毒症状が現れる。

比較的安価で捌かれているため被害は拡大しているのだが、肝心の入手経路も売人も不明。

捜査が難航していた麻薬取締局であったが、つい先日捕まえた人間から、有力な情報を得た。

「天下の碌鳴学院も、内部は危険がいっぱい……ってことだろ?」

揶揄するように言ったものの、眼鏡の奥にある少年の瞳が真剣な色を宿しているのを見て、木崎は深く頷いた。

全国有数の進学校であり、また良家の子息ばかりが集う名門碌鳴学院の生徒から、インサニティを購入したと言う情報である。

山一つを敷地とし、外界から完全に隔離された学院に、本当に売人がいるとすれば見つからないのも頷ける。

碌鳴学院は全寮制を採用しており、発見者となりやすい親の目もなく、隠し所としては最適だ。

現在までに学院の生徒で逮捕された者は一名だけだが、学院の山の麓に広がる街は最もインサニティの被害が出ている地域であり、また他に有力な手がかりもないことで、捜査が開始されることになった。

「自分たちで調べればいいのに……」
「仕方ないだろ。碌鳴には政界関係者や財界の大物の息子がわんさかいるんだ。マトリも警察も手ぇ出せない」
「間垣さんから、報酬きっちりもらって来いよ?」
「必要経費だけで、前回の報酬金額を請求してやるから期待しとけ」

それは流石に無理なのでは……と片頬を引きつらせた少年は、しかしフロントガラスに映った光景に、言葉をなくした。

木崎はブレーキを踏みつつ、驚愕と呆れの混じった表情を浮かべる。

「これは、また……噂には聞いてたけど、凄まじいな」
「……学校って、こういうもんなの?」
「馬鹿言うな。異例だ、金持ち学校と言う名のアウトローだ。ほら、降りるぞ」

男に促され光はどうにか降車したが、黒になった目は正面に釘付けだ。

凄まじいインパクトに頭の回転が鈍くなる。

目の前にあるものは、何だ。

これを学校と言うカテゴリーに振り分けてもいいのだろうか。

長い前髪の合間から、少年は目をまん丸に見開いていた。




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