遠ざかる背中に、言葉にならぬ罪悪感が胸を覆って行く。

「俺……」

続く台詞を、仁志は持っていなかった。

今更何を言おうか。

間違いなく、自分は綾瀬を傷つけた。

勝手に抱えた後ろめたさで彼から逃げて、勝手な気詰まりの思いから壁を作り、勝手な怯えから傷つけた。

何様のつもりだ。

加害者が更に被害者を傷つけるなど、赦されるはずがない。

分かっているのに。

頭ではこんなにも分かっているのに。

大切にしたい。

誰にも傷をつけさせず、自分の手で護りたい。

綾瀬に害なすすべてのものから、彼を護りたい。

七夕祭りで口にした誓いには、一片の偽りもなかった。

なのに。

どうして彼を傷つけるのは、いつも自分なのだろう。

「アッキー」

悲壮とも呼べる翳りを見せた仁志に、残った先輩から声がかかる。

綾瀬が消えた方向から、半ば無理やり視線を剥がせば、大きな瞳が待ち構えていた。

「この大変な時期に、内部の結束が揺らいでしまうのは問題だよ、アッキー。逃げたらダメ」

その眼は語る内容とは異なり、決してこちらを責めてはいなかった。

教え諭すように、柔らかく包み込むように。

すべてを見通すかの如く、澄んだ色合いは驚くほどに深い。

仁志の抱く焦燥、絶望、苛立ち、困惑。

そして一番大切な感情までも、彼は見抜いているのだろう。

たった一つの年の差が、果てしなく大きな違いなのだと実感させられるのは、こんなとき。

これ以上、綾瀬を傷つけたくない。

歌音や穂積に迷惑をかけたくない。

心に生じる思いはどれも真実なのに。

今の仁志は、自分の取るべき道が見えていても、進むための方法を知らなかった。




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