沈黙に耐え切れなくなって声をかければ、相手の視線が自分の手元に注がれていると気が付いた。

奇妙に走る鼓動を紛らわそうと、付け合せのサラダを作っていたのだが、何か穂積の注意を引くものでもあったのか。

不思議そうに見れば、彼は感心したような口ぶりで言った。

「お前、料理出来るのか?」
「まぁ、一応……でもこれ、別に料理っていう程のものじゃないけど」
「そうなのか?でも上手いだろ」

どうだろう。

確かに出来るは出来るが、穂積のような金持ちがいつも口にしているであろう食事とは、雲泥の差がある。

プロと比べるつもりはないけれど、光のレベルなど一般的な主婦レベル。

ここで自信を持って応じるには、相手を取り巻く食環境を考慮すると、聊か心許なかった。

穂積の瞳は興味津々と言った様子で、平生の涼しげな紳士笑顔など知らぬように、薄切りにされる胡瓜や四つにカットされたトマトを見つめていた。

その「初めて見るものに惹き付けられる」ような風情に、まさかと思う。

「もしかして会長、料理作ってるところ見たことない?」
「あまり多くはないな。家庭科の授業で、他の人間がやっているのは見たことはある」
「……会長は何してたんですか」
「代わりにやるとか言い出す奴らがいたから、任せた」

流石、生徒会長様。

予想通り過ぎて言葉もない。

穂積に心酔する生徒からしたら、彼に慣れない料理をさせるより、自分の家庭的な一面をアピールした方がずっといいのだろう。

まかり間違って穂積が包丁で怪我をしようものなら、きっと絶叫ものだ。

加えて、自分の手料理を憧れの存在に食べてもらえるとなれば、さぞ腕を振るったことだろう。

「それって女の子の発想だと思ってた……」
「なにか言ったか?」
「気にしないで下さい。碌鳴事情を平然と受け入れてる自分に、ショックを受けているだけです」

はぁ、とため息をつくこちらを、穂積は訝しげに見ていた。

その嘆息に、別の意味も含まれていることを、彼は知りもしない。

光はほっとしていた。

何故か肩に力が入ってしまった自分は、やけに穂積を意識していて、いつも通りに振舞えるか不安だったのだ。

思いがけず向こうから話題を提供してくれて、本当に助かった。

緊張していただけ安堵も大きくて、少年は少し浮かれていた。

穂積と普通に話せたことが、とても嬉しい。

「手際がいいな」
「え?」
「次の行動まで間をあけていない。慣れているのか?」

そんな細かくチェックされていたことは驚きだが、褒められれば悪い気がしないのが人情というもので。

光はやんわりと微笑みながら答えた。




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