「あの、会長?」

急に黙ったこちらを窺うように声をかけられて、男はようやく我に返った。

寸前まで考えていた内容から、胸中の気不味さは大きい。

何が綺麗だ。

トチ狂ったのか、自分。

相手と目を合わせる前に、穂積は口の中だけで「ゴミ虫、ゴミ虫」と唱えた。

「……気にするな」
「いきなり黙ったら気にするって。あ、なんか飲む?暑いからボーとしてたんじゃないですか」

ちょっと待ってて下さい、といい置いて部屋に戻って行った光は、程なくして澄んだ飴色が満たされたグラスを手に戻って来た。

「はい、アイスティーです。冷蔵庫に入ってたやつだから、味の保障はしないけど」
「お前、敬語にするかタメ口にするかはっきりしろ」

お礼の代わりに以前から気になっていたことを突いてやれば、相手は鍋の蓋を閉めてから、野菜を手に取った。

「あ、気になりますか?」
「そういうわけじゃないが、お前の敬語には敬意が感じられない」
「そりゃあまぁ、敬意なんて払ってないですから」
「態度を改めろ、ゴミ虫」

失礼な物言いに若干眉を寄せたところで、手際よく包丁を使い夏野菜を切って行く光の手元に注意が行った。

料理の出来ない人間ほど、包丁捌きが少し上手いだけで、相手を料理上手と思い込みやすいものだ。

当然、穂積は料理など出来る人種ではなかった。

学院でも家でも、一流シェフの作る極上の味を食すだけである。

例に漏れず、彼もまた光の姿に感心していた。




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