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SIDE:穂積
長谷川 光は、穂積にとって気になる存在だ。
初対面から自分のことを「傲慢」であると、はっきり非難して来たのは勿論のこと。
外見に見合わぬ派手なアクションや、言動は忘れたくても忘れがたい。
しかし、ここ最近の気になる理由は、純粋に転校生の持つ特性ではなかった。
転校時期。
歌音に指摘されて初めて気付いたものの、確かに光が学院にやって来た時期は妙だった。
生徒会に保管されている個人情報によれば、父親の急な海外転勤に伴い、全寮制の碌鳴に編入したとされている。
学院の生徒がドラッグで捕まった五月。
その翌月にやって来ただけで、彼をドラッグと結びつけるのは話が飛躍し過ぎていると思ったけれど、光が学院に慣れて来た先月にも、逸見たちによってドラッグ服用者が発見されているのは、聊か気になった。
更に言えば、同じ月に光自身そのドラッグの被害者になりかけたのだ。
「被害者」と言うフレーズは、彼をドラッグと無関係に思わせがちだが、意図的に被害者側に回ることも十分予想される。
極めつけは、光が持つ麻薬の知識。
あの時は、仁志の騒ぎで気にも留めなかったが、人一倍観察力の秀でた歌音はしっかり気付いていたらしい。
どうして転校生は、三人の生徒がドラッグを飲まされたと分かったのか。
生徒会室で事情を聞いたときも、光は彼らが何かを服用する決定的瞬間を見たとは言っていなかった。
つまり「何か」を呑めばあの状態になることを、知っていたということになる。
気のせいか強張っているようにも見える顔で、料理を進める光の顔は、相変わらず暑苦しい長い前髪と眼鏡で判然としない。
七夕祭りでは、必死に素顔を見られることに抗っていた様子を思い出し、眼鏡はそのままにしておいたのだが、ドラッグとの関連を指摘されたあとでは、以前よりも気になってしまう。
元より、彼が何かを隠していることは、漠然とながら感じていた。
それが。
ドラッグなのだろうか。
――嘘を……ついていても?
蘇ったのは、弓道場での会合だった。
眼鏡の奥に隠された瞳から、陽の光を受けて透き通った輝きを見せた雫。
あれほど綺麗な泣き顔を、穂積は見たことがなかった。
光の顔立ちは分からない。
一瞬だけ見たことはあるが、記憶は朧気だ。
だから、光を綺麗だと思うのはおかしいはず。
それなのに、心の底から素直に湧き上がった感情は、あの涙に対する言葉にならぬ衝撃であった。
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