複雑な心境で押し黙る光に、仁志は怪訝そうな顔をしていた。

やってらんないな、と目を逸らしたとき、光はまたしても見知った人物を発見した。

「あ、綾瀬先輩」
「っ!?」
「あや……んごっ!」

木の上から呼びかけようとするも、横から飛び出て来た掌が、わしっと顎を掴んだ。

強制的に言葉を奪った男に、一体なにごとだと思う。

少し離れた位置にいた生徒会副会長は、微かに少年の声が耳に入ったのか、きょろきょろと首を巡らしている。

「っと、なにすんだよ」
「うっせ、黙ってろ」
「黙ってろって……綾瀬先輩じゃん。仁志、どした?顔ヘンだぞ」
「変じゃねぇよ、美形だアホ。……綾瀬先輩、鬼だろ?見つかっていいのかよ」

自画自賛の仁志に呆気に取られたものの、確かに綾瀬の腕には鬼を現す赤い腕章が着いていることに気付いた。

またしても迂闊な行動を取りそうだった自分に、少し落ち込みそうだ。

「ごめん」
「あ、や、気にすんな。そんな深刻な問題じゃねぇから」
「でも内申に影響あんだろ?」
「俺、付属行く気ねぇし。生徒会入ってる時点で入試は安泰だ」
「は?なんだよそれっ」

先ほどの「スイマセンでした」を返せと目で訴えたのと、サマーキャンプ前に遭遇した綾瀬を思い出したのは、ほぼ同時だった。

中途半端な眼力で停止したこちらを、どうしたと見やる男が、綾瀬を避けている。

語られた相談内容が事実なのだと、すぐに悟った。

「仁志……」
「あ?なんだよ」

鬼が接近していないかを、枝と枝の合間から確認している相手。

どうして仁志は、綾瀬を避けるのだろう。

「最近さ、綾瀬先輩と話してる?」
「……は?何言ってんだよ、生徒会室行きゃ話すに決まってんだろ。会話しないで仕事になるか」
「そうじゃなくって……」

どう説明すればいいのか考えあぐねている隙に、こちらを振り返った仁志の方から話題を振ってきた。

「んなことより、お前マジで気をつけろよ。サマーキャンプ参加者なんて、生徒会シンパの中でも相当な奴ばっかだからな」
「あ、うん」
「返事が温ぃ。前回のこともあるから、会長方は手ぇ出して来ないだろうけど、俺んとこは今一読めねぇからな。直球バカの集まりだから、勧告堂々と無視して何かやらかしても不思議じゃねぇんだよ」
「さすが書記方」
「あ?」
「崇拝対象に似てるなぁ、と」
「んだと、てめぇっ!」

くわっと鋭い目つきで吼え出そうとしたとき、隠れんぼの終了を告げるベルが鳴り響いた。

ジリリリリと、まるでサイレンのような音が、蝉の声が響く山中に木霊する。

光はひょいっと木から飛び降り避難した。

「ほら、仁志次は見回りなんだろ?生徒会の人たちんとこに、早く行けよ」
「……逃げやがったな」
「少しは俺に優しくしといた方がいいぞ。何せ、仁志の今日の夕飯は、俺の手にかかってるんだからな」

にっこり笑って言えば、同じように木から飛び降りて来た仁志の頬が、ひくりと強張った。




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