「お前、こんなところに隠れてんのか。すぐに見つかんぞ」

上から落とされた声に、光はこれ見よがしに体をビクつかせた。

身を潜ませたのは、四方を隠すように木々が伸びる幹の陰だった。

早くもアウトかと思ったのは一瞬で、聞き慣れた声に警戒を解いた。

頭上に目をやり唖然とする。

「いや、隠れんぼレベルでそこまでしないだろ」
「お前舐めんなよ。オリエンテーションの結果は内申に響くんだぞ」
「うそっ!」

とんでもない発言にぎょっとすると、木によじ登っていた仁志が「シッ」と鋭く囁いた。

慌てて体を縮めれば、すぐ近くを人の気配が通過して行く。

ガサガサと鳴る葉の音が完全に消えてから、光は曲げていた膝を伸ばした。

「隠れてること忘れてんだろ?」
「スイマセンでした」
「もういいからお前も上来い。絶対ぇ見つかるから」

確かに今のままでは見つかる可能性は高い。

発見されたが最後。

近くに仁志がいるとはいえ、生徒会シンパばかりが参加しているサマーキャンプなのだから、非常に危険だ。

光はひょいっと手足に力を込めて、手ごろな枝を足場にひょいひょいっと仁志と同じ木に上った。

「野生児だな」
「仁志に言われたくないし。木登りとか凄い久しぶりだから、掌が痛い……」

茂る葉で姿を隠しつつ、トゲが刺さっていないかチェックした。

現在行われているのは、アトラクション第一弾の「隠れんぼ」。

Hydeandseek、と言えば何だかカッコイイ気がしないこともないが、何故に高校生の時分で童心に返らねばならない。

ブルジョワ高校と言う点から見ても、このイベントは碌鳴において場違いにも思える。

「サマーキャンプって、毎年「隠れんぼ」やるの?」
「んなわけねぇだろ」

だよなー、とホッとしつつ相槌を打った自分を後悔したのは、次の仁志の発言によってだ。

「去年は「だるまさんが転んだ」だろ、その前は「氷り鬼」やったな。あー、何代か前の生徒会で「花一匁」やったらしいんだけど、生徒会役員と誰が手を繋ぐかで乱闘騒ぎになったらしくてな、それ以来は禁止されてる」
「うん、俺が悪かった。もういいです、はい」

軽く挙手して謝る。

庶民との共通点だね!なんて気軽に思えないのは、学院の生徒たちがどういう思惑で、光にとってはポピュラーな外遊びをしているのか、簡単に読めてしまったからだ。

良家の子息たちにとって、これは庶民の気持ちを理解しようとする「勉強」でもあるのだ。

勿論、慣れない遊びに面白さを見出して、本気で遊んでいる生徒たちも多いが、行事の一環に組み込まれているのはそういう理由があるから。

同じような富裕層の人間にばかり囲まれて育っては、大多数を占める一般庶民の心理を解することは出来ない。

生徒たちが将来相手にするのは庶民なのだから、それでは不味いのである。




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