例の如く生徒会長様の素晴らしい挨拶によって幕を開けたサマーキャンプ。

開会式の次に用意されたプログラムが昼食とは肩透かしだが、学院側が手配したバーベキューセットで、各々のコテージで高級食材をジュウジュウやれば、気分も上がる。

友人同士で集まっているところもあり、中々好評のようだった。

「あ、てめぇ俺の肉食いやがったな!」
「は?」

仁志と二人、仲良く食事をしていたところで、急に言われて相手を見やる。

手に持った鉄串には、よく焼けた肉が彩り鮮やかなパプリカの間に挟まれていた。

一口齧ったそれを睨みつけられて、光は鋭い眼光の理由を悟った。

「これ、仁志が火にかけたやつだった?」
「自分のかどうかくらい覚えとけよっ!」

まったく大袈裟な。

テラスのテーブルには、高校生男子の胃袋を考慮した量の食材が山となっているのだから、何も怒らなくてもいいだろうに。

レンズの奥で呆れたような瞳を向ければ、仁志の視線がギラリと光った。

慣れたはずの相手に慄いてしまったのは、本能的なものだ。

「そっちがそのつもりなら、俺にも考えがある」
「に、仁志さん?いったい何を……っ!」

そこまで訊ねてようやく気付けたものの、手遅れだ。

はっと網の上に置かれた自分の串を掴み取る一瞬前に、仁志の手がそれを攫った。

「あーっ!俺のシーフードっ!!」
「お前に反論する権利はねぇっ!」

言いながら、光が心密かに楽しみにしていた、海老や帆立が連なった「海の幸串」にかぶりつく。

何たる暴挙だろう。

光はただ愕然とした思いで、うまうまと咀嚼した相手を眺めるばかりだ。

綺麗に食べきった男を、先ほど彼にされたようにキッと睨み付けた。

「大人気ないぞっ、仁志っ!」
「先に仕掛けたのはてめぇだろうがっ!!」
「だからってやり返すことないだろっ、報復なんて不良の真似は格好だけにしろ!」
「あぁ?誰が不良だ、誰がっ!ビジュアルで決め付けんなヲタクがっ。被支配者民は大人しく搾取されてろっ!」
「決め付けてんのは、仁志も同じだろっ。確かに俺の格好はヲタクだけど、中身までヲタクなわけじゃないっ!自分が支配者層にいると思い込める妄想力の逞しさがあるなら、仁志の方がよっぽどヲタク気質だっつーの!」

続く言葉の応酬は、ほぼ互角。

交わす内容の下らなさに、彼ら自身が気付くことはない。

何せ二人にとっては、重大事件なのだから。

至極冷静にことの成り行きを見つめていたのは、第三者。

歌音は楽しそうに笑いながら、逸見は何をしているんだかと腕を組んで嘆息だ。

同年代の人間との、他愛のない喧嘩を初めてしたという事実に光が気付いたのは、生徒会の二人がデザートのフルーツを持って仲裁に入った後のことだった。




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