八月イベント開催。




視界をぐるりと回せば、雄大な自然を誇る山々が、夏の青空と絶妙なコントラストを作り上げている。

平生、山中にある学院に通う生徒たちにとっては見慣れた風景であったが、胸に吸い込むどこか冷たい空気に、光は頬を緩めた。

八月初日。

リムジンバス三台に収まる人数で、サマーキャンプは開催された。

県を越え碌鳴所有のキャンプ場に到着したのは、つい先ほど。

綺麗に整備された歩道と点在するコテージは、やはり金持ちのキャンプであると思わせる。

それでも、転校してからこちら、学院の敷地から出ていなかった光にとって、久方の遠出は気分のよいものであった。

「光、何ぼけっとしてんだ。バス酔いでもしたか?」
「仁志」

ここでも碌鳴ルールなのか、生徒会役員は他の生徒とは別れた車両だったため、数時間ぶりにあった不良顔に手を上げて応えた。

「違うよ。ただ久々に外出たなぁって思ったら、不思議な気分になって」
「あー、何だかんだでお前ほとんど外出してねぇもんな」

荷物を持ちながら、事前に割り振られているコテージへと移動し始める。

意外だったのは、他の生徒たちも自分で荷物を運んでいる点で、例え一泊二日の荷物でも、学院の生徒ならば事前に送っているイメージのあった光は、少々驚いた。

予定表によれば夕飯の支度も生徒が行うらしく、こうして雑事に生徒を働かせるイベントは珍しい。

自分のことは自分でやる。

本来ならば当然なのだが、ここでは「珍しい」ものに分類されてしまっている事態に、苦笑が落ちた。

「俺も最近外行ってなかったからな、一泊二日ってのがおしいよなぁ」
「だな。よく分かんないんだけど、一泊って短くないか?」

学校主催の旅行が、どの程度の期間なのかは知らないものの、首を傾げる。

一泊では特に何かをする前に帰ることになってしまうだろうに。

「仕方ねぇよ。うちの生徒が学院以外の大自然の中で、何日も耐えられるわけねぇんだから」

飽きてしまうのだ、と説明されれば納得だ。

いくら山の中の学院とは言え、施設内は当然文明の利器に溢れている。

最新技術に慣れ親しんだ生徒たちが、コテージレベルで我慢出来るのは一日なのだろう。

これで宿泊するのがテントだったら、参加者はゼロかもしれないなと考えた。

光たちが使う七番のコテージは、キャンプ場中央にあるウッドデッキの広場の割と近くだった。

平屋だがテラスもあり、木目が優しい外観は中々いい。

鍵を預かっていた仁志がさっさとドアを開けた。

「早く入るぞ、次のプログラムまで時間あんまねぇんだから」
「次のプログラムって?」
「……お前予定表見ろよ、開会式だ」

呆れたような相手の視線に乾いた笑いを返し、光はそそくさと玄関を潜って行った。




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