策謀。




SIDE:霜月

「どういうことっ!?」

突如としてヒステリックな叫び声を上げた少年に、生徒会から回って来た雑事をこなしていた会長方の面々は、ビクッと肩を震わせた。

補佐委員会に宛がわれた部屋は各方それぞれあり、副委員長が被った猫を忘れたところで、すでに慣れた生徒たちが不審そうな顔をすることはない。

だからと言って、哉琉が大声を出すことにまで慣れているわけではなかった。

会長方筆頭が凝視するのは、サマーキャンプ参加者一覧。

今朝生徒会から下ろされたその用紙が、指の力でぐしゃりと歪むことにも気付かず、少年は美少女を思わせる面を引きつらせた。

「あの、どうかなさったんですか……?」

一人の生徒が窺うように、そろりとデスクに近付いた。

この状態の哉琉に近づくのは一種の賭けだったが、やはりあれほど大きなリアクションを見せられては、聞かずにはいられない。

キッと強い視線で射抜かれて、訊ねた生徒は失敗したかと身構えた。

「どうもこうもないよっ!どうしてあの転校生が、サマーキャンプに参加するわけっ!?」
「えっ?あの根暗ヲタクがっ?」

だが、それは杞憂に終わった。

返された言葉に目を見開く。

それは周囲で事の成り行きを見守っていた生徒たち全員に言えることで、途端室内は騒然となった。

「嘘だろっ!アイツなんて図々しいんだっ」
「夏休みまで穂積様の傍にいようだなんて、ゴミの分際で思い上がってるよっ!!」
「ちょっと構ってもらえたから、勘違いしてんじゃない?」
「虫けらは巣にでも帰ってればいいんだ!」

凄まじい罵詈雑言の嵐。

この場にいないボサボサの黒髪を持つ転校生が、どれほど嫌われているのかよく分かる。

彼らとて初めはここまで、余裕がなかったわけではない。

穂積に攻撃を仕掛けた人間として、長谷川 光は攻撃対象であった。

けれど、彼が学院で過ごす期間が長くなるにつれ、会長方が抱く感情はただの敵愾心ではなくなった。

自分たちの敬愛し崇拝する男は、何かにつけてあの転校生を気にかけていると、知ってしまったからだ。

サバイバルゲームしかり、七夕祭りしかり。

長谷川を助けるために、懸命に動いた生徒会長を知ってしまった。

今では嫉妬とよく似たどす黒い思いが胸中を占領し、嘲弄する余地もなくひたすら潰すことだけを願っている。

これ以上、穂積の目に留まるようなら、もう容赦は出来ないと。

彼らの目に走る激情は物語っていた。

「ウルサイっ!!」

バンッ!とデスクを叩く音と共に、一喝が飛ぶ。

途端、ぴたりと喧騒が止むのは、その声に含まれる憎悪がこの部屋にいる誰よりも強いと、皆本能的に悟ってしまったから。




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