「じゃあ、僕は向こうだから」
「あ、はい。仕事ですか?」
「うん。帰省する生徒の確認があるから、これから正門なんだ」
「暑い中ご苦労様です。話聞いてくれて、ありがとうございました」

ぺこりと一礼をして、歌音に背を向け分かれ道を行く。

さて、寮の部屋にはまだあの金髪頭がいるのだろうか。

彼とて生徒会役員なのだから、仕事があってもおかしくはないのに。

暢気にサボっているのだとしたら、歌音に報告した方がいいのかもしれない。

まだ追いかければ間に合うかと、光が振り返ったときだった。

「長谷川くんっ!」
「え?」

分かれた場所から少しも動いていない歌音が、にっこり笑いながらこちらを見ている。

「不意に誰かのことを思い出したら、それは前兆かもしれないよ」

言うや、光を置いて正門へと消えて行った。

辺りに人影はなく、強めに吹いた風が葉擦れの音を立てる。

夏の気温が汗を促し、昼時の短い影に雫を落とした。

「誰かを思い出したらって……誰を思い出すって言うんだよ」

吐き出した息は熱く、そして重い。

疲れた様子で今度こそ寮へと歩き出した。

歌音に言われた瞬間、頭を過ぎって行ったのは、平生見ることのない美しい男の安らかな寝顔だなんて、何かの間違いに相違ない。

穂積 真昼だなんて、間違いだ。




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