まさかまだこんな下らない真似をしているとは思わず、光は歌音を背に庇うように立つと、本気の怒りで彼らを見据えた。

「俺、二度目を見逃せるほど、人間出来てないんだよな」
「う、うるさいっ!転校生が口を挟んで来るなっ」

気丈にも声を荒げたのは、リーダー格の生徒。

光の実力を目の当たりにしているだけあって、腰は随分引けていたが、大きな瞳には強い反発心と憎悪が見受けられる。

ここで許せばまた繰り返すことになるだろうと判断し、光は一歩少年たちとの距離を詰めようとして、背後から腕を掴まれた。

「歌音先輩?どうしたんですか」
「僕はいいから、早く行こう」
「何言ってるんですか。俺が見ただけでこれ二度目じゃ……
「お願いだからっ、長谷川くん……見なかったことにして」

ぎゅっと寄せられた眉間に、思わず息が止まった。

やけに辛そうな表情は、歌音の愛らしい容貌にはまるで似つかわしくない。

どうして歌音が彼らを見逃せと言うのか、さっぱり分からず困惑しているうちに、生徒たちは素早く逃げ出した。

後を追うには左腕を拘束する小さな手を、無理やり引き剥がすしかない。

ぶつかった眼の強さに、脱力する。

「分かりました、追いません。歌音先輩の問題に、首突っ込んですいませんでした」
「僕の方こそ、我侭を言ってゴメンね。助けてくれて、ありがとう」

ほっと安堵した風に言われたら、もう降参だ。

綾瀬の発言に加え、ここにももう一つ、分からない疑問が生まれてしまった。

「さっきのって、この前の生徒たちですよね?」

離れて行く手を見ながら、確認までに聞いてみる。

歌音は苦く笑いながら、頷いた。

「何で逸見先輩に言わないんですか?あの人がこのことを知ったら、すぐに対処してくれると思うんですけど」

前と同じことを言うのは、当然の流れだった。

呼び出しを受けて喜ぶような人間など、いないはず。

少なくとも、目の前にいる小柄な先輩に、特殊な趣味があるとは思えない。

先ほどの生徒たちは逸見の信奉者なのだから、彼に一言告げれば平穏を得ることが出来るだろうに。

歌音はやはり、寂寥感に満ちた遠い眼で、首を横に振った。

「これはね、僕の戦いなんだ。彼らは僕と同じだから、逸見に知らせることはしちゃいけないんだよ」

駄目だ。

説明されても理解出来ないなんて、初めてのことだ。

副会長の話は推察する情報があまりに少なかったから、分からないままでも仕方ないと一応納得出来るが、歌音は確かに自分に教えてくれているのに。

学年一位を取ったからと言って、まったく意味がない己の頭脳に、光はがっくりと項垂れた。




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