少しも意味が分からない。

彼の声には決して仁志を嫌悪する意思は含まれておらず、むしろ今までの流れを鑑みれば、綾瀬はあの不良に好意を持っていると用意に察せられる。

では何故。

友達ではないと、そのカテゴリーに分類したくはないと言うのだろうか。

キャパシティを上回る事態に、相手を呆然を見つめる自分の表情は、きっとひどく間抜けなはずだ。

対面でははにかんだように、綾瀬が笑う。

妙な気恥ずかしさを堪えた微笑は、秀でた副会長の美貌をどこか可愛らしく見せた。

何が彼をこうさせるのか。

光の頭はその疑問だけで一杯である。

何も返さぬこちらに気付かず、綾瀬は校舎の時計にチラと目をやると、慌てた風に立ち上がった。

「うわっ、もうこんな時間!長谷川くん、ゴメンね。僕もう行かなくちゃ」
「あの……はい、気にしないで下さい」
「また今度、ゆっくり話そうね!いつでも生徒会室に来てよ、じゃあ」

言うや、小走りで本校舎へと駆けて行く背中は、真っ直ぐでやけに美しく見えた。

しばしその場に留まっていた少年が、我に返ったのは数分の後。

思考の海に沈んでいた頭を軽く振って、熱中症になる前に非難しようと、寮への道につく。

何だろう。

何かが引っかかる。

何か、胸の内でもやもやとした不明瞭なものがある。

それは疑問。

己一人では考えたところで一向に解けぬ、難問中の難問だ。

細い並木道を進みながらも、光の脳裏には先ほどの綾瀬の笑顔が、繰り返し浮かんでいた。

これほど意識を閉ざしていたと言うのに、その音が聞こえたのは奇跡に近かった。

いつかどこかで聞いた、身の詰まったものが叩き付けられるような衝撃音。

はっと足を止め、緊張した面持ちで周囲を見回す。

「今の……」

呟き一つをきっかけに、光は煉瓦道を大きく外れ、緑が鬱蒼と茂る林の中へと飛び込んだ。

嫌な予感が心臓を締め付け、走る速度を上げさせる。

制服のスラックスが汚れるのも構わず、土を蹴りつけ求める姿を探した。

オレンジの髪をした、天使のような先輩を捉えたのは、間もなくのことだった。

「歌音先輩っ!」
「長谷川くん……どうしてまたっ……」

二度目。

あの時と同じ顔ぶれが、生徒会会計を取り囲んでいる光景に、最早何を言うべきか。

生徒たちは突然の乱入者が、前回と同じ人間だと気付くや、当時を思い出したのだろう。

サァッと血の気の引いた面で、こちらを凝視して来る。




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