もっとずっと、大きくて根底にあるのは。

『怖い』

ただ、これだけ。

言って拒絶されたとき、あの鋭い瞳は何を語るのか。

イメージだけが先走り、告白する前から萎縮する身体。

怖くて怖くて、身動きが取れなくなってしまう。

「動いてみるのが、一番いいんです」
「え……」

綾瀬の方を見ることなく紡げば、傍らの存在がゆっくりと顔を持ち上げた。

「動かないと、余計なことばかり考えてしまう。考える余裕がなくなるくらい、動いてみればいいんです。怖いとか、相手を気遣うとか、そんなもの全部……全部忘れて」
「そうだね……いっそ忘れられたら、どんなに楽だろうね」

忘れることの愚かしさ、夢見ることの空虚さ。

そのどちらも理解している疲れた顔で、綾瀬が同調する。

何を言っているのだろう。

自分自身、動くことなど出来ていないくせに。

他人にそれを押し付けるだなんて。

出来ないことを、他人に託すだなんて。

あまりに身勝手だ。

でも。

少年は綾瀬に向き直る。

否、光が本当に向き合ったのは、悩む自分だ。

「綾瀬先輩、仁志を本当に友達だと思うなら、腹を割って話す必要があると思います。自分の思っていることを、そのままぶつける必要が」

自分はいつか、ぶつけられるのだろうか。

ドラッグの一件が片付けば、素顔を晒すことが出来るのだろうか。

今はまだ分からないけれど。

いつか。

いつか光は、仁志に嘘偽りのない己を紹介したいと思った。

意味を捉えられぬ台詞が聞こえたのは、光がそう胸に抱いたのと同時だった。

「友達じゃない」

今、聞こえたものは、何だろう。

僅かにもぶれる事無く鼓膜を揺らしたはずなのに。

脳の理解が追いつかず、光はバッと綾瀬を見やる。

これほど思い悩む綾瀬の、信じられぬ発言。

待っていたのは、どこか照れたように頬を緩めた存在で、光の混乱は更に深まった。

「彼がどう思っているかは知らないけれど、僕はね。僕は彼を『友達』というカテゴリーに入れたくないみたいだ」




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