口当たりの悪い言葉だ。

自分は調査員なのだからと、何度言い聞かせたところでこの不快感はきっと消えることはない。

初めて『友達』になることを望んだ相手を、疑い欺いている罪悪感を受け入れたときから、二度と消えないのだ。

あぁ、電話でよかった。

今の顔を見られたら、間違いなく保護者に胸中を看破されていたはず。

抱く思いが『自分』にとって不必要であることも、また自覚している光は、悟られぬよう息を吐き出した。

『……お前、何かあったか?』
「え、あ、あぁ。そうだ、言わなきゃならないこと、まだまだあったんだ。実はこの前のイベント中に……」
『そういう意味じゃなかったんだけどな。まぁ、いいか。で?何があった』

なら一体、どういう意味だったのか。

問い返す前に先を促され、光は追求を諦め先日の一件を伝えた。

自分が拉致された事実を説明するのは正直抵抗があったが、そこを隠しては事件が成立しないために、すべてを話す。

仁志が壮絶な怒りを見せたところに差し掛かれば、口調はぎこちなくなったが、しかしあの理性を取り払った激情が薬物によるものでないと断言出来ぬ以上、どうにか続けた。

穂積の徹底した情報管理によって、これ以上深く探るのは難しいこと。

インサニティ服用を強制された三人が、搬送された病院のこと。

すべてを語り終えるまでには、暫くの時間を要した。

『分かった。俺はどうにかして、その生徒三人との接触を図る。お前は生徒会が握っている情報がどのレベルなのか、探れるだけ探れ。引き続き、インサニティの売人を調査しろ』
「了解。サマーキャンプが終わったらまた連絡するけど、状況によっては夏一杯帰らないかもしれない」
『光』

通話を締めくくる文言を言おうとしたところで、改まった硬質な響きが耳を打つ。

「なに?」
『いくらある程度の耐性があるからって、お前が完全にドラッグが効かないわけじゃない。それだけ学院で敵視されてんだ。細心の注意を払って、自分の身を第一に守れ』
「そんな心配し過ぎ……」
『じゃ、ないだろ。頼むから、無茶だけはするな……守ってやれなくて、ごめんな』
「ちがっ、武ふ……っ」

ブツッと通話が切れる。

くしゃりと歪めた顔で、ただの箱に成り下がったものへ舌打ちをぶつけた。

何て声であんな言葉を言うのだ。

光を一人調査先に送り込んだのは、他でもない彼だ。

それは自分たちの肩書きを考えれば当然のことで、いくら危険が付き纏おうと、誰かが罪の意識を持つ必要はない。

請け負った依頼を遂行するには、あまりに基本的な行動だから。

だから木崎が、謝る理由だって存在しないと、彼とて分かっているはず。

理解していても、言わずにはいられなかったのであろう保護者を思うと、少年の胸はぎりっと鈍く軋むのだった。




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