優しさの形、想いの形。




学院の敷地はあまりに広大だ。

山一つ分とあって、至る所に木陰を作る雄大な自然の中に、優美な校舎が鎮座する。

全校生徒三百名を収容する学生寮に、人工芝のフィールドや馬場、職員寮など、様々な施設を有していても、まだ敷地は有り余るほどだ。

終業式が済み通知表が渡されるHRを終えると、生徒たちは帰省のため足早に寮へ消えていった。

渋滞防止のために各家からの送迎車は禁止されているらしく、皆揃って学院が提供するリムジンバスで城下町まで下るらしい。

早くも集合場所である正門に向かう生徒たちの波から離れ、人気のない林まで足を伸ばしているのは、恐らく自分くらいのものだろう。

光は閑散とした街路でゆっくりと歩を止めると、そぅっと周囲を窺った。

他に人の気配がないことを確認すると、木立の影で隠れるように携帯電話を取り出す。

記憶している番号を素早く押せば、鼓膜を叩くコール音。

またしても三コール目で、相手に繋がった。

『夏バテしてないか、高校生』

開口一番飛び込んで来た台詞に、光は頬を緩めた。

張っていた肩が落ちる。

「うん、大丈夫。武文こそ、俺がいない間ちゃんとご飯食べてんの?」
『まぁ適当にな。……つーか、お前今どこにいる。虫が五月蝿いぞ』
「蝉な、蝉。えーと、寮から結構行った林のあたり」
『お前なにやってんだ。部屋でかけろって教えてあるだろ』

ぎょっとしたような木崎の声に、光は慌てて事情を説明した。

屋外では誰がどこに潜んでいるのか分かり難い。

定期連絡は人に聞かれる可能性の低い、密室で行うのがセオリーだ。

分かっていながら光がこんなミンミン大合唱の中、電話をかけているのは、売人候補・仁志 秋吉のせいであった。

終業式の後、HRに現れなかった彼を心配していた光は、寮に戻ったところでリビングのソファを陣取り居眠る金髪頭を発見したのだ。

何故に自分の部屋で寝ないのか。

生徒会専用ゴールドカードによる不法侵入には最早慣れたが、この意味不明行動には参ってしまった。

何せ光は、まだ木崎にサマーキャンプに参加する旨を知らせていなかったのだ。

参加申請を提出したのは学校を後にする直前で、完全に受理されるまでに保護者と連絡を取る必要がある。

万が一、光が帰省する必要があった場合、すぐに申請を取りやめることが出来るからだ。

一度受理をされてから、取りやめるのは色々と手続きが面倒らしく、役員の仁志からは絶対に止めろといい含められていた。

もっと早く木崎に連絡を取っていなかった自分が悪いと分かっていたが、暢気に睡眠を貪る不良役員を見たら全責任を彼に押し付けたくなった。

かと言って、こればかりは仁志が責任の取りようもなく。

人のいる部屋で電話をかけることの出来ない光は、わざわざ冷房の空間から抜け出して、急いでこの誰の目も届かぬ林にやって来たのだった。

「ってことで、仕方なかったんだよ」
『次からは事前に連絡しろな。で、そのサマーキャンプに参加すんのか』
「うん、仁志が参加するなら、俺が傍離れるわけにはいかないし」




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