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間垣の二文字に、急にトーンダウンした少年に気付いていたが、木崎は構わず先を続けた。
本当に問題なのは、これからなのだ。
「どうやらインサニティを捌いているのは、客と同じガキらしい。最も被害が出てる街の近隣高校が、温床になってるようだ」
「いや、だからいつからって聞いてるんだけど……」
あっさりと無視された問いかけを怪訝に思い、上半身だけゆっくりと起こす。
紙山の隙間から、木崎と目が合った。
途端、少年は気付く。
千影は捕まえた視線を逃さぬように、ぐっと瞳に力を込めた。
こうして木崎が自分の質問を無視するときは、必ず何かを隠しているときだ。
嘘をつかない代わりに、肝心のことを後回しにしたり、隠したり。
保護者の悪癖はこれまでの経験からよく分かっていたので、千影は一歩も退かない。
緩まることのない無言の追求に、木崎は降参の息を吐き出した。
ドラッグに関しての説明をして、最後の最後まで言わずにおこうと思ったのだが。
仕方ない。
「お前には、その全寮制高校に転入してもらう……来週から」
「はぁぁっ!?」
耳に入った言葉に、未だぼやけたままであった思考が覚醒。
千影の叫び声が部屋に木霊した。
睡魔を軽々と凌駕した驚愕に、少年はソファから飛び上がると、そのまま保護者のデスクに突進。
バンッと掌を付けたデスクの上で書類が雪崩を起こした。
「おいっ」と文句を言おうとした木崎は、対面の形相にさっと口を噤む。
「今、聞き捨てならない単語が、いくつかあったんですけど?」
「俺はなかった」
「全寮制ってどういうことだよっ!!しかも、来週からって……俺、今日帰って来たばかりだぞっ!」
「全寮制。その場所に所属するものは須く指定の寮に入り、仲間と寝食を共にすること。らいし……」
「広辞苑っぽく適当なこと言うなっ!来週の意味も聞いてないしっ、つか知ってるしっ!!」
「そうか、ならよろしく頼んだぞ」
「納得はしてないっ。日本語一から学び直せっ!」
肺活量のままに叫びつくせば、ぜぇはぁと呼吸が乱れる。
木崎はどうやら居直ったようで、こちらの反論を受け流しているのが察せられた。
余裕の態で間垣に渡す調査書の作成に取り掛かり始めている。
ムキになった自分が馬鹿らしくもあったが、調査開始日はともかくとして、もう一方はどうしても頷けない。
「武文だって分かってんだろ?全寮制ってことは、四六時中同じ人間と一緒に過ごさなきゃいけない。今回の不良んところは、一応自分のマンションがあったし、一人の時間も多くて自由に調べられた。けど、全寮制はそうじゃない。調査なんて不可能だっ!」
不良グループへの潜入は、特定の人間と夜だけ顔を合わせればことが足りて、後は自分の思うままに情報を探すことが出来た。
だが、学校と言うより明確な組織に入ってしまえば、そうも行かない。
常に監視の目がある中で、どうして調査が出来ようか。
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