第一学期終業式。




クラスごとに席が埋まった大講堂で、光は一人思った。

あぁ、なるほどな。

と。

「だから嫌いなんだよね、集会って!」
「体育館よりマシだろ」
「三年が前って、ずるくねぇ?」
「ばっ、声でけぇって」

耳に飛び込んで来る生徒たちの会話は、ほぼ同じ。

大講堂のステージ前から上級生に席を宛がわれていることに、不満を抱くものばかりだ。

考える必要もなく理由を悟ってしまう自分に、光はこの特殊過ぎる学院に慣れてしまった事実を痛感させられた。

体育館よりも大講堂がマシだというのは、雛壇上にシートが作られているお陰で、遠くともステージが見れるからだろう。

いいや、ステージでは御幣があった。

正しくは、「壇上に現れる人物たち」だ。

座席が制服で埋まったのを見計らったように、大講堂の照明がすぅっと絞られた。

比例して、今から現れる人々への関心から生じる喧騒も、引き潮のように消え去る。

いつかのように、闇の落ちた舞台の上にスポットライトが当てられたのは、次のときだった。

浮かび上がったしなやかな人影を、今度は知っていた。

「只今より、第一学期終業式を行います。司会はもちろん僕こと生徒会副会長、綾瀬 滸が務めさせていただきます。一同、起立っ……礼!」

ザッと素早く頭を下げる生徒たちの機敏な動きに、光も慌てて頭を垂れた。

流石に英才教育を受けて来ただけあって、碌鳴の少年たちの一礼は美しい。

完璧な角度、タイミングで行われたそれに、若干遅れて顔を上げたこちらを、隣に座るクラスメイトが横目で睨んだ。

「着席。本日、多忙のため欠席された学院長からの挨拶に代わり、生徒会会長 穂積 真昼くんによる終業のお言葉です。一同、静粛に……礼っ」

行事のMCとは異なった綾瀬の進行に胸中だけで驚いたのだが、学院長の代理が生徒会長に回って来る学院の常識はその上を行く。

今度はどうにか遅れることなく着席したまま頭を下げたが、驚愕は小さくなかった。

粛々とした雰囲気の中、ステージ中央に登場した男に、講堂内の空気が一段と振りつめるのが感じ取れる。

大衆を前にすれば更に増幅される為政者のオーラ。

今日も今日とて完璧な美貌を誇る男の凛とした低音が、マイクを通しスピーカーから流れた。

『欠席・早退・遅刻者。昨年よりも増加した理由に心当たりのある者は、来学期はその心当たりを消すように。期末テストにおける、成績優秀者は全体で31名。満足出来る数字ではないと胸に刻むこと。退学者が多数出た一学期を、諸君らが何と考えるか……自分が何のためにこの学院に足を踏み入れたのかを、決して忘れるな』

前置きも何ない事務事項を、簡潔過ぎるほど簡潔に並べる生徒会長を、一心不乱に見つめる群衆の姿は最早圧巻だった。

崇拝する何かを目にする瞳の輝きが、静かな世界で唯一音を奏でる人物に注がれているのだ。

あの男に多くの人間が惹き付けられて止まぬ事実は、光を圧倒と呆れがないまぜになった気分にさせる。




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