「おそらく、ドラッグと呼ばれるものに分類されると思う」
「中毒性は?」
「まだ詳しくは分かっていないけど、三人の状態を見る限り安心してよさそうだよ」
「そうか。会長方の方はどうなっている?」

答えたのは、変わって逸見だ。

「霜月に追求してみましたが、逃げられました。今月中に実行犯の生徒は退学に追い込まれると思います。ですが、確実に主犯はアイツですね」
「……だろうな。霜月が相手なら、現行犯で捕まえなければ意味はない。手間をかけたな」
「いえ。一応釘を刺すことは出来たと思うので、よっぽど頭の作りが貧しくなければ、しばらくの間は長谷川に手を出すことはないかと」

なんとも「らしい」発言に、給湯室から戻ってきた綾瀬が苦笑を漏らす。

外回りの二人によく冷えたアイスティーを出しながら、さらりと言った。

「でも、霜月くんは極度の穂積信者でしょ?なら、思考回路はショートしてると思うんだよね」
「綾瀬くん……」
「え?あ、また?」

歌音に頷かれて慌てる姿には、後輩との関係に悩んでいた先刻の香りは、欠片さえ見当たらなかった。

仁志よりも格段に切り替えのつく綾瀬の頭脳に、心配するだけ無駄であったかと思う。

彼にとって、負った背中の傷は自分と加害者二人だけの問題。

周囲に与える影響を、最小限に抑える言動をよく心得ているのだ。

「長谷川くんのことなんだけど……」

ふと挙がった名前に、穂積は発言者を注視した。

目線の先にいるオレンジ髪の生徒は、声音の滑らかさに反して、ぎこちなく頬が固まってみえる。

「どうした?ゴミ虫がどうかしたのか」
「これは、まだ僕の予感に過ぎないことだから、何の確信があるわけじゃないんだ」
「言ってみろ」

ワンクッションが置かれたことで、グラスを持とうとした手が僅かに止まった。

それでも平静を装って、窺うように促した。

「うん。長谷川くんが持つドラッグの情報が、少し気になるんだ。それと、転校時期」

だが、歌音によって語られた内容に、穂積の指先はついに硝子の器に触れることはなかったのである。




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