「会長方の生徒に、お前を襲うよう強要されたらしい。断ったところ、暴力を受けて何かを飲まされた。お前の推察通りだな」
「飲まされたって、何を……」

ぶつかった黒曜石の強さに、不自然に言葉が切れた。

脱力していた先刻から一変、真剣な輝きに思わず背筋が伸びる。

「長谷川、会長方がお前に危害を加える可能性を見逃していたことは謝る。俺のミスで不快な思いをさせた、悪かった」
「そんな、会長のせいじゃない。助けに来てくれたし、会長が謝る必要ないよ」
「いや、霜月……会長方を制御しきれていなかった俺の失態だ。一応、今回のことを材料に、暫くの間は行動を制限させられるはずだが、お前も十分気をつけろ。何かあれば仁志なり他の役員なりに相談しろ」
「わ、かった……」

有無を言わさぬ調子で告げられ、光はこくこくと首肯するのみ。

そもそも誰のせいでこんな状況に陥っているのだとか、穂積が最初に「潰す宣言」をしなければよかったのにとか。

光が大本の原因に対する、不満を抱くことはなかった。

しかし、次の穂積の台詞に頬を硬調させた。

「そして、ここから先はお前に話すわけにはいかない。お前の安全に気は配るが、これ以上この問題に介入させられない」
「おいっ、光は被害者なんだぞっ!?知る権利があるだろっ」
「長谷川は一般生徒だ。話せることと、話せないこと、お前にも区別が出来るだろ」

徹底した拒絶に憤りを覚えたのは、仁志だった。

穂積の言う尤もな内容に、沈黙せざるを得なかったようだが、瞳には不満の意思がありありと浮かんでいる。

腕を組んで対面の存在を睨みつける男に、苦笑が漏れた。

「いいよ、仁志。会長の言う通りだろ」
「は?」

どこに不満があろうか。

確かに、学院側がどこまでドラッグについての情報を有しているのか、この先どのような手段に出るのか。

調べるためには、穂積の勧告は障害以外の何物でもない。

けれど、いくら事件の被害者と言えど情報を流すのは浅慮過ぎる。

光は彼の徹底した仕事意識に、感心したほどだ。

罪悪感から来る私情に流されて、線引きを曖昧にするような輩より、よっぽどいい。

「変なこと聞いてごめん」

素直に謝れば、穂積はふっと頬を緩めた。

「いや、こっちこそ聞くだけ聞いて悪かったな。昼はまだなんだろう?仁志はまだ少し借りるが、お前は先に食事にするといい」
「了解です。じゃあな、仁志」
「あ、お、おう」

暗に退室を促され、光はさっさと席を立つとドアノブに手をかけた。

ところで。

「あのさ」

くるりと室内を振り返った。

視線の先にいるのは、天下の生徒会長様。

「どうした」
「何かあったとき連絡すんの、会長はダメなのか?」

それはただ、純粋な疑問。

何の含みも下心もない、ただただ思っただけのこと。

穂積は瞬きの間、何を言われたのか理解しかねたのか動きを止めた後、「いや」と首を振った。

「仁志に番号とアドレス聞いておけ。いつでも連絡しろ」
「ありがと。失礼しましたー」

パタン、と。

扉を閉めた。




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