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強大な権力を持つ碌鳴の生徒と言えど、ドラッグの知識は持っていないだろうから、恐らく話は警察に回る。
だが、警察はこの問題を慎重に扱っているのだ。
売人が潜伏していると見られるこの学院に有力者の子息が多く在籍しているせいで、いくら当の碌鳴生徒会から話が行ったとして、実質動きはないだろう。
光が気にすべきは、外への影響ではない。
誰があのクスリを所持していたのか。
これに尽きる。
まずは、インサニティを服用させられた生徒たちから話を聞くことが先決だ。
入院先を聞き出さなければ。
意識を内側に向けているうちに、生徒の喧騒が残る校舎は過ぎて、いつの間にか碌鳴館の前までやって来ていた。
訪れるのは二度目でも、眼前の洋館が一組織のためだけにあると思えば、何とも言えない気分になる。
これもまた碌鳴ルールか、と呆れたように嘆息してから、光はさっさと生徒会室に行こうと重厚な扉に手をかけた。
「仁志?何ボーっとしてんだよ」
「あ、悪ぃ……」
「会長たちが待ってるんだろ?急ごう」
視線を落としたまま立ち尽くす男に、不思議そうに呼びかければ、我に返ったように仁志が動き出す。
その不自然なぎこちなさに、何だか胸騒ぎを覚えながら、光は目的地へと足を向けた。
館の中は正面エントランスに二本の階段が弧を描くように下がっていて、上った中央の部屋が生徒会室になっている。
大理石の床に敷かれた深紅の絨毯の上を歩き、仁志がその扉を叩いた。
「仁志です。光連れてきました」
『入れ』
一枚隔てた向こうからの応答に、仁志が小さく息を吐き出したのを、光は見逃さなかった。
何だ?
何かあるのか?
「失礼します。会長ー、俺らメシまだなんで、早く終わらせてくれよ」
「こっちも同じだ、少しは我慢しろ」
訊ねようと開いた口から音を出す前に、入室の挨拶がされてしまった。
「……どうも」
「あぁ、長谷川か。そこに座れ、この間のことで少し聞きたいことがある」
応接用のソファを勧められ、光は仁志と並んで座った。
室内には仕事を中断して対面にやって来た穂積一人きりで、他の役員はどこに行ったのか。
視線を彷徨わせれば、察した会長が教えてくれた。
「歌音なら逸見と二人で病院に行っている」
「病院って、この間の三人が搬送されたところですか?」
「あぁ、ことがことだからな。碌鳴の病院に入れた」
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