「今回のことで、僕は痛感したんだ。逸見くんの言う通り、僕は自分の部下に対してあまりに無関心過ぎた。監督不届きと言われてもしょうがないなって、本当に思う。だから、もう二度とそんなことにならないように、まずはこの事件から僕は自分のやるべきことをしたいんだ。会長方の内部にもっと目を向けるべきだって、教えてくれたのは君だよ、逸見くん」
「……随分と殊勝だな。今回のことで、今までの怠慢が赦されるとでも思うのか?」
「そんなこと思ってない!だから……もし、君が言うのなら……僕が会長方のトップに相応しくないと、委員長が言うのなら、僕は任を辞するつもりだよ。でもっ、でもお願い!
チャンスをくれなんて言わない、ただ僕に償いの機会を与えて欲しいんだ」

涙ぐんだ瞳で彼を見れば、あぁなんて顔。

例え口にする言葉の何もかもが嘘だと見破られていたとして。

必死に縋る眼と落ちた眉尻が偽りだと悟られていたとして。

ここまで厚顔に言われてしまえば、いくら策略家の逸見とて手は出せない。

紡ぐ台詞はあまりに完璧で、付け入る隙がなさ過ぎた。

堂々と、善人の皮を被る。

「分かった……好きにしろ」

低音で投げられた言葉に、哉琉はまたしても逃走が成功したことを察した。

「ありがとう、逸見くん!」

満面の笑みで言えば、対面の端整な顔が不愉快そうに顰められた。

部屋の扉が控えめなノックを鳴らしたことで、二人の間に漂う不穏な空気は破られた。

こちらが反応する前に動いたのは、一瞬前までの険しい面を消した逸見。

彼は少しの間を置くことなく扉を開くと、予め訪問者を知っていたかのように、下げていた目を和らげた。

「突然ごめんね、あ……邪魔しちゃったかな」
「いや、もう話は終わった。どうした歌音」
「話たいことがあるから、碌鳴館にと思って」
「連絡すれば迎えに行ったんだが……わざわざ悪かったな」

他の誰にも見せることのない優しい横顔は、彼が仕える生徒会会計だけのもの。

オレンジに染めた柔らかな癖毛を、何色ものカラーピンで留めている少年に、哉琉は笑顔で挨拶をした。

「こんにちは、歌音くん」
「霜月くん、こんにちは」

作りこんだこちらとは対照的な、自然な微笑にチリッと胸の奥が焦げ付いた。

こいつも嫌いな人間の一人。

歌音の愛らしい外見と聡明な頭脳は、自分の生徒会入りを阻んだものでしかない。

もし彼が穂積の傍にいなければ、きっと会計の椅子は自分に回ってきたはずだと、紛い物の笑顔を浮かべる少年は少しも疑っていなかった。

何て目障りな二人組み。

身内に仄暗い感情を抱きながら、二人が連れ立って出て行くのを見送った。




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